「法務の仕事はAIによって奪われるか?」
2019/10/28 IT法務, 民法・商法
1.はじめに
「法務の仕事はAIによって奪われるか?」。
日本経済新聞によると、日本マイクロソフトは2019年9月11日、日本の経営層やビジネスリーダー向けに人工知能(AI)講座を開設しました(「日本経済新聞」)。
今年の3月には日本政府が「AI戦略」を発表しています(「内閣府資料」)。
このように技術革新により効率化が進められる中、法務担当者はいかにして生き残っていくべきか。
今日は現在のテクノロジーと法務の将来についてみていきたいと思います。
2.「知覚、記憶、表現する」テクノロジーたち
(1) テクノロジーの現在
将来がどうなるかを予測するには、今現在のテクノロジー群の概要を確認する必要があるでしょう。そこでまずは、現在注目を浴び私たちの生活を変えうるとされているテクノロジーが互いにどのような位置にあるのか、ざっくりご紹介したいと思います。
巷では「IoT」「5G」「ビッグデータ」「AI」等々のニュースが流れています。それぞれについて「物がインターネットにつながるんでしょ」「すごい通信ができるんでしょ」といった風におおまかなイメージを持っている方も多いでしょう。わたしもそれくらいの認識でしたが、一歩引いて俯瞰してみると、この4つのテクノロジーはそれぞれ、身体機能の拡張と捉えることができるのかもしれません。すなわち、①「感覚器官」(IoT)、②「神経」(5G)、③「記憶」(ビッグデータ(BD))、④「思考したものを表現」(AI)する技術です。
例えば、この技術群を使用するモデルとして車を挙げることができるでしょう。自動車が周りの状況を察知して(IoT)、その情報を低遅延でネットワークに共有し(5G)、膨大なデータをもとに(BD))、最適な動作を決定し(AI)、瞬時に(5G)、その動作を行うといった車両です。法務の主要な仕事内容である契約審査でも、契約書審査ソフトに読み込ませると(IoT)、ネットワーク上にある膨大な契約書、条文、判例の情報をもとに(BD)、契約書の文言に潜む紛争の危険を判断し、最適な条項を提案する(AI)といったサービスが普及することを予想できるでしょう。
(2) リーガルテック市場
既に、諸外国では、法律にIT技術を用いた、いわゆる「リーガルテック」が広く普及しつつあります。例えば、2016年にはアメリカでAI弁護士「ROSS」が導入され、2018年4月の時点で米国の法律事務所10社が「ROSS」を雇用しています(「中央日報」)。2018年には韓国でもAI弁護士「U-LEX」が導入されています(「中央日報」同上)。
これらのAI弁護士は、主に関連法令や判例を検索する機能を有しており、「ROSS」に至っては、弁護士に相談するように話しかけると膨大なデータから回答とその確実さを表示する機能があるとされています(「WIRED」)。さながら法律に特化したSiriやGoogleアシスタントといえるかもしれません。
契約審査に必要な文章解析技術よりも困難とされる音声言語解析技術においてさえ諸外国ではこのようなレベルにあります。このように、法律分野のIT化は各国で進んでおり、米国企業における(法務を含めた)AI導入済率は13.8%にのぼるとの調査もあります(MM総研)。他方、日本では1.8%にとどまる(MM総研)とされており、米国のリーガルテックサービス提供企業が約1000社に比べ、日本では数十社程度とされていることからも(「日本経済新聞」2019年6月4日)、日本はリーガルテックの世界情勢に一歩遅れをとっているのかもしれません。
このように、遅れをとっている原因のひとつは、「なんだかよくわからない」ことにあるのではないでしょうか。ソフトをインストールするのか、有料アカウントを取得するのか、そして、具体的に業務時間が何時間短縮され、コストはどれくらい減縮できる見込みなのか。これが具体的に分からないと現在それほど困っていない以上、導入する動機を維持することは困難でしょう。
そこで、日本で現在提供されている各種リーガルテックサービスとその導入方法を一部ご紹介したいと思います。
【契約書作成・管理サービス例】(時短)
・「LAWGUE」(株式会社日本法務システム研究所)
≪特徴≫
Wordで作成した契約書を読み込ませると、条項ごとに分割して認識し、その条
項が実際にどのような交渉過程、意図のもと編集されたのか会社内部で情報共有
できる。「あの人に確認しないと進めない」をなくすことが期待できる。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
HPで確認できず
≪導入企業例≫
・双日株式会社
・弁護士ドットコム株式会社
・「Holmes」(株式会社Holmes)
≪特徴≫
紛争を未然に防ぐ、漏れをなくす等契約の本質的な管理を設計思想におく。
そのため紙の契約書の管理も可能。電子ファイルなら、法務・経理・事業部が連
携して契約締結から終了までを一挙に行える。また相互に関連する契約を一個のま
とまりとして管理できるのも特徴。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
1アカウント:¥5,180~/月
≪導入企業例≫
・三菱地所株式会社
・株式会社高島屋
・「hubble」(株式会社Hubble)
≪特徴≫
サイト上からWordにアクセスして従前の通りWordを使って編集し保存する
と、自動的にクラウド上のファイルに反映され、バージョン・差分表示がされる。
複数人で同時に契約書を編集するにはうってつけだろう。また、後述する
「CLOUDSIGN」と連携が可能なため、「Hubble」で契約書を作成して
「CLOUDSIGN」で電子締結することが可能。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
1アカウント:¥2,980~/月
≪導入企業例≫
・三井不動産株式会社
・かなめ総合法律事務所
【契約書審査サービス例】(属人性回避)
・「AI-CON」(GVA TECH株式会社)
≪特徴≫
個人の経験・能力に依存しがちな契約書審査を支援する。契約書の内容を、「法
律条項」「ビジネス条項」「手続き条項」の3つに分類し、それぞれについて異な
った観点からアドバイスしてくれる。不足している条項、修正案の提示機能があ
る。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
¥99,600~/年
≪導入企業例≫
・株式会社東急ハンズ
・京王電鉄株式会社
・「LegalForce」(株式会社LegalForce )
≪特徴≫
不利な条項、欠落条項の指摘。英文契約書にも対応。
≪導入方法≫
確認できず
≪費用≫
HPで確認できず
≪導入企業例≫
・弁護士法人中央総合法律事務所
・株式会社SOU
【電子契約サービス例】(時短・印刷郵送コスト削減)
・「CLOUDSIGN」(弁護士ドットコム株式会社)
≪特徴≫
現実に合意が済んでいる契約書等をアップロードし、相手方が同意すること
により、相互同意がなされたことを示す電子署名が施される。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
¥1万~/月 + (文書送信数×規定の料金)
≪導入企業例≫
・みずほ証券株式会社
・株式会社JTB
・「Agree」(GMOクラウド株式会社)
≪特徴≫
電子サイン(画面上に手書)、電子署名の二種類のサービスがある。契約書管
理サービスhubbleと連携できる。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
¥1万~/月 + (文書送信数×規定の料金)
≪導入企業例≫
・株式会社サカイ引越センター
・株式会社SKペイバンク
・「Adobe Sign」(アドビ・システムズ株式会社)
≪特徴≫
電子サインサービスが受けられる。メールを送信する等の簡単な操作で電子契
約が締結できるのが特徴。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
HPで確認できず
≪導入企業例≫
・株式会社レアジョブ
・ルネサスエレクトロニクス株式会社
【法務対応翻訳サービス例】(時短・コスト削減)
・「T-4OO」(株式会社ロゼッタ)
≪特徴≫
最大精度95%、プロの翻訳者に匹敵する制度を誇る翻訳サービス。
一般的なデータべースに加え、各社の専用データベースによりAIが学習し、使えば
使うほど各社に最適な翻訳がなされる。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
1人¥3,000/月
※契約は年単位
※10名契約の場合
※ワード数制限、従量制、無制限(英語のみ)等多様な料金プランあり
≪導入企業例≫
・オリンパス株式会社
・中山国際法律事務所
・「BUSINESS LAWYERS翻訳サービス」(弁護士ドットコム株式会社)
≪特徴≫
1ファイル数分で翻訳完了。スキャンしたPDFも翻訳可能。
≪導入方法≫
WEB上でログイン
≪費用≫
¥12万~/年 + 初期費用
≪導入企業例≫
・株式会社レアジョブ
・ルネサスエレクトロニクス株式会社
3.技術との向き合い方
このように、技術は効率化を志向する以上、今までやっていた業務が不要になることがあるでしょう。そのことを捉え、AIによって奪われる職業とはなにかという論点が取りざたされることも少なくありません。確かに、各技術が連携することにより業務が効率化されることはあります。しかし、技術もまだ万能とは言えません。判断業務を得意とするAI技術も、契約書の文言について判断できても、交渉過程や長年の取引実績により構築された相手方企業の担当者との人的関係を代替することは今のところできませんし、できる未来が目前にせまっているいわれても実感がわかないでしょう。
もはや、「法務がAIに淘汰されるか」という論点から「法務がどの程度代替されていくか」という論点に移るべきで時期に来たのかもしれません。私たちは、現在何が代替されつつあり、何が代替されにくいかを予想したうえで、何を習得すべきかを考える必要があるでしょう。
そして、上記に挙げた技術群は連携して社会を徐々に変容させていくことが予想できます。避けては通れぬ技術革新に対応して法整備が進むことも予想できます。技術の詳細を知ることも大切でしょうが、上記にあげたように技術群の全体像を把握し、未来に備えていくことがビジネスマンとして今求められているのかもしれません。
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