ミカンのオーナー商法で逮捕、出資法の預り金規制について
2020/10/22 金融法務, 出資法, その他
はじめに
ミカンの果樹オーナー事業の名目で出資金を集めていたとして、岩手県警は出資法違反の疑いで会社代表ら6人を逮捕していたことがわかりました。被害総額は4億円以上とのことです。今回は出資法が規制する預り金について見直していきます。
事件の概要
報道などによりますと、「えひめ共同産業合同会社」の代表比嘉勝容疑者(53)ら6人は、2019年6月から2020年2月にかけて神奈川県の男性ら3人から計百数十万円を預かった疑いがもたれております。同容疑者らはミカンの果樹のオーナーとして1口10万円で出資を募集し、毎月配当が受けられ、契約満了次には出資金と同額でミカンの果樹を買い取るとうたっていたとされます。配当金は支払われたこともあったものの、業務移転などを理由に引き伸ばされていたとのことです。
出資法による規制
出資法では、何人も不特定多数の者から後日払い戻しとして出資金の全額またはこれ以上の額を支払う旨を示して出資金を受け入れを行ってはならないとしております(1条)。そして2条では預り金が禁止されており、違反した場合には3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(8条3項1号、2号)。これは銀行などの金融機関以外の者が一般大衆から受信業務を行うと、ひとたびその者が破綻した場合に一般大衆やその関係者に多大な被害を及ぼすことから、免許や認可を受けた金融機関以外の者がこのような業務を行うことを禁止しております(最判昭和36年4月26日)。
預り金の要件
出資法2条1項では、他の法律の規定で特別に許されている場合を除き、「業として預り金」を行うことを禁止しております。そして「預り金」とは、不特定多数の者からの金銭の受け入れであり、「預金」「貯金」「定期積金」その他どのような名目であっても経済的にこれらと同様のものを言うとしております(同1号、2号)。そして金融庁のガイドラインによりますと、この預り金に該当するための要件として、①相手が不特定多数、②金銭の受け入れであること、③元本返還が約されていること、④主として預け主の便宜のために金銭を保管することを目的としているものであること、が挙げられております。つまりどのような名目であっても、その経済的効果が預金や貯金など、およそ金融機関が行うような行為であれば該当するということです。
預り金と消費貸借
預り金規制が問題となった場合、しばしばその行為が預り金なのか、金銭消費貸借に過ぎないのかが問題となることがあります。実際に出資者に借用証書を交付して返済時期も定め金銭消費貸借契約として金銭を受け入れていた事例が存在します。一般的には金融機関が行うこのような行為は消費寄託と呼ばれ、民法上も消費貸借とは区別されております。しかしこの点について裁判例では、当該行為が消費貸借の性質があり、そのような名目で行われていたとしても、その経済的性質が預貯金や定期積金と同様であり、特定の者からの借り入れとは認められない場合には預り金に該当するとしています(名古屋高裁昭和56年11月16日)。つまり消費寄託か消費貸借かの区別は基本的に問題とされていないと言えます。
はじめに
本件で「えひめ共同産業合同会社」の代表ら6人が行っていたとされる行為は1口10万円でミカンの果樹に出資し、毎月配当が得られ、期間満了時には同額で払い戻すという内容で全国100人以上から出資を募っていたというものです。これが事実であった場合、不特定多数から元本保証した上で金銭を集めていたことになり、「預り金」に該当する可能性が高いと言えます。以上のように不特定多数から元本保証した上で行う出資の募集は違法となります。会社法の規定のもとで行われる「社債」は適法に同様の経済的効果を得られる資金調達手段と言えます。またその他にも募集株式の発行や内部留保も会社の資金確保の手段と言えますが、近年注目されるクラウドファンディングの場合は別途、各種法規制が働いており注意が必要です。どのような資金調達法が適法かを正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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