来年3月施行、改正会社法について
2020/11/19 商事法務, 会社法, その他
はじめに
政府は17日、一定の会社に社外取締役の設置の義務化や取締役の報酬決定の透明化などを規定した改正会社法の一部の施行日を2021年3月1日とする政令を閣議決定しました。株主への株主総会資料の電子提供については別途施工日が決定されるとのことです。今回は改正会社法の概要について見直していきます。
濫用的株主提案の制限
議決権の1%または300個(公開会社では6ヶ月間)を保有する株主は取締役に対し、株主総会での議題を提案したり、また株主総会の議題について議案の要領を株主に通知することを請求することができます(303条1項、305条1項)。取締役会非設置会社では株式保有要件はありません。これらを株主提案権と言います。このうち議案の要領通知請求権については、改正法では提案できる議案数の上限が10となります。近年一部の株主によって多数の提案が行われ、会社に通知のコストや株主総会での運営の負担が増加し機能不全に陥るという弊害が生じていたためです。なお役員選任議案については何人提案しようとも1議案と扱われるとされます。
取締役の報酬規制
大会社で金商法に基づいて有価証券報告書を提出している上場会社、または監査等委員会設置会社では、取締役の個人別の報酬が定款または株主総会で決定されていない場合、取締役会や法務省令に基づき個人別報酬の決定方針を定めなければならないとされます。また報酬として付与される株式や新株予約権についてその上限が株主総会での決議事項となります。
会社補償等に関する規定の整備
役員等が会社や株主から責任追及の訴えを提起された場合などで、その対応に必要な費用等を会社が負担する規定が新たに設けられます。これは全てを会社が負担するのではなく、相当な範囲に限定されることとなり、また株主総会や取締役会決議を要します。また役員等のそのような事態に備えて締結される保険契約(いわゆるD&O保険)に関する規定も新設されます。これまで解釈に委ねられていた点が会社法に明文化されることとなりました。こちらもやはり株主総会や取締役会決議を必要とします。
社外取締役の義務化
現行会社法では特別取締役を置く場合、監査等委員会設置会社である場合、指名委員会等設置会社である場合のみ社外取締役の設置が義務付けられております。それ以外の場合でも任意に設置することは可能です。改正法ではそれらに加えて公開大会社で金商法により有価証券報告書を提出する上場会社については社外取締役の設置が義務付けられることとなります。また社外取締役の要件である社外性についても、会社と取締役に利益相反の状況が生じている場合、または特定の取締役が業務執行をすると株主の利益を損なうおそれがある場合には取締役会の決定により社外取締役に業務執行の委託が可能となります。この場合は業務執行を行っても社外性は失われないこととなります。
株式交付制度の創設
ある買収会社が被買収会社の株式を全部取得し、被買収会社の株主には対価として買収会社の株式を交付し、完全親子会社関係を構築する場合があります。この制度を株式交換と言います(2条31号)。しかしこの制度は完全親子会社化のための制度であり、通常の子会社化には利用できませんでした。完全子会社化まではしたくないが、自社の株式を対価として子会社株主に交付したいという場合には新株発行の現物出資という形をとるしかなく、それには検査役の選任などコストがかかるという問題がありました。そこで新たにこのような場合にも利用できる制度として株式交付が新設されます。これはあくまで子会社化することを目的としていることから、最低でも相手会社の株式の50%以上を取得することが必要となります。それ以外の手続きは基本的に株式交換と同様です。
コメント
以上のように昨年12月に成立した改正会社法が、電子通知の部分を除いて来年3月1日から交付されることなります。特に大きな改正点はやはり一定の上場会社に社外取締役の設置を義務付ける点と言えます。社外取締役は現在および過去10年間、その会社や子会社で業務執行役員などでなかったことなどかなり複雑な要件が設けられており、社外取締役の確保は会社にとって相当な負担と言われてきました。そこで役員の負担の軽減や社外性喪失の緩和なども改正に盛り込まれております。また新たにM&Aの手段の一つとして株式交付制度も導入されます。簡易な手続きで自社株を対価とした子会社化の実現が期待できます。改正法施行でどのような対応が必要となるのか、またどのようなことが新たに可能となるのかを正確に把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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