井筒屋が1億円に減資へ、資本金減少について
2021/04/22 商事法務, 戦略法務, 会社法, その他
はじめに
北九州市の百貨店「井筒屋」は20日、資本金を現在の105億円から1億円に減少させると発表しました。これにより中小企業扱いとなる見通しです。今回は会社法上の資本金減少について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、井筒屋は資本金を現在の105億円から1億円に減少させ、資本準備金も9億円にまで減少させる計画を発表しました。減額分は剰余金に組み替える予定とされます。井筒屋の昨年度の決算は新型コロナウイルスの影響で売上高が前年比で2割減少の505億円、純利益は1億円と7割減少していたとのことです。累積赤字は225億円にのぼり財務基盤の健全化が目的としております。5月27日の株主総会での決議を経て7月1日に実施される予定です。
資本金減少とは
資本金とは会社の計算書類上の係数であり、会社債権者のために会社財産を確保するための枠組みを言います。現在の会社法では最低資本金制度が撤廃され、どのような会社でも資本金を減少(減資)させることが可能です。減少させた分は資本準備金またはその他資本剰余金に組み替えることとなります。これにより会社の事業規模にあった財務基盤に修正したり、剰余金がマイナスとなっている場合に欠損を填補することが可能となります。
資本金減少の手続き
資本金の減少には原則として株主総会の特別決議が必要となります(会社法447条、309条2項9号)。しかし例外として定時株主総会における欠損填補を目的とする場合には普通決議で可能です(同カッコ書き)。また株式の発行と同時に、それにより増えた範囲で資本金を減少させる場合には取締役会決議で可能となります(447条3項)。決議では減少する額、準備金に組み入れる場合はその旨と額、効力発生日を定めます。資本金は債権者保護のための制度でもあることから必ず債権者異議手続きが必要となります。官報での公告としれている債権者への個別催告が必要ですが、官報に加え、定款所定の日刊新聞による公告か電子公告を行えば個別催告は省略できます(449条4項)。効力発生の日から2週間以内に資本金減少の登記を行います(915条1項)。
資本金減少のメリット
資本金を1億円以下に減少させることによって税制上の中小企業扱いとなり、年800万円までの所得については法人税率が15%になる軽減税率の適用を受けることができます。また年800万円までの交際費は損金として算入することができ、過去10年以内に発生した繰越欠損金が所得よりも多い場合には所得を0として扱うことができます。これ以外にも少額減価償却資産の損金算入や外形標準課税の不適用などが受けられます。また会社法でも資本金が5億円以上となると大会社扱いとなり会計監査人の設置が必要ですが、減資によってそれを回避することも可能です。
コメント
本件で井筒屋は資本金を1億円に減少させ、準備金も大幅に剰余金に組み替える予定としております。これにより7月1日から同社は会社法上の大会社ではなくなり、また税制上も中小企業扱いとなります。会計監査人の設置が不要となり、同時に監査役や監査等委員会の設置も不要となることから機関設計もコンパクトに抑えられます。以上のように会社法でも税制面でも会社の規模は資本金を基準として決まってきます。大会社となることによって一般消費者や投資家からの評価や信用は増加する反面、財政的に負担も大きくなります。昨今の新型コロナ禍によって業績が悪化している企業も増加しております。自社の業績や事業規模にあった資本金設計を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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