知財高裁が「マツキヨ」音商標認める、「他人の氏名」商標について
2021/09/08 知財・ライセンス, 商標法, その他
はじめに
「マツモトキヨシ」という歌詞を含む音商標の登録が認められなかった件で特許庁の審決取消が求められていた訴訟で先月30日、知財高裁は審決を取り消していたことがわかりました。「他人の氏名」には該当しないとのことです。今回は商標と他人の氏名について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、マツモトキヨシHDはテレビCMなどで使用している「マツモトキヨシ」という言葉とメロディーを音商標として2017年1月に出願しましたが、翌18年3月に特許庁により拒絶されていたとされます。「マツモトキヨシ」という言葉には他人の氏名が含まれているということが理由とのことです。同社はこれを不服として審判の申し立てを行っておりましたが20年9月に請求を退ける審決が出され、さらに審決取消を求め知財高裁に提訴していたとされます。
商標とは
商標法2条によりますと、商標とは「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」であって業として商品を生産し、証明し若しくは譲渡する者がその商品について使用するものを言うとされます。これによりそれが付された商品やサービスの出所を明らかにし、使用者の業務上の信用の維持を図り、産業の発達に寄与することを目的としております(1条)。商標は従来、文字や図形、記号や立体形状に限られておりましたが、平成26年改正により「音」「ホログラム」「動き」「位置」「色彩」等も対象に加えられております。
登録できない商標
商標法4条では登録できない商標として、国旗、菊花紋章、国際機関を表示する標章、国家を標章する印章や記号、国または自治体などの公的機関を表示する標章、他人の業務に係るものと混同を生ずるおそれがあるものなど19号まで列挙されております。そのうちの8号では「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標」が規定されております。これらに該当する場合は、その他人の承諾を得ていなければ商標登録はできないとされます。例えば自己の本名「田中
健」から取って「KENTANAKA」や「タナカケン」といった商号などが該当します。一般的・客観的にその商号の中に氏名が読み取れ、それがハローページなどに掲載されるなど実在の氏名であれば該当すると判断されます。実際に「KENKIKUCHI」という商号が「他人の氏名」に該当すると判断された裁判例も存在します(知財高裁令和元年7月8日)。
拒絶された場合の対応
商標出願に対し審査官が登録できないと判断した場合、特許庁から拒絶理由通知が送付されます(15条の2)。これに対し拒絶理由は妥当ではないと考える場合は、発送の日から40日以内に意見書を提出できます。そして拒絶査定を受けた場合には査定謄本の送達の日から3ヶ月以内に審判請求を行うことができます(44条1項)。審判では3~5人の審判官の合議体によって審理がなされ、拒絶理由は無いと判断された場合は登録審決が、なお拒絶理由は存在すると判断された場合は拒絶審決が出されることとなります。この拒絶審決に対しては、審決謄本送達日から30日以内に知財高裁に審決取消の訴えを定期することが可能です(63条1項)。
コメント
本件で特許庁は「マツモトキヨシ」には他人の氏名が含まれると判断し、商標登録を拒絶しました。これに対しマツモトキヨシ側は、テレビCMや店内BGMなどで使用され広く認知されており、「マツモトキヨシ」からは一般的にドラッグストアやその運営会社を思い浮かべると主張していたとされます。知財高裁はこれを認め、音商標を聞いた人が、そこから人の氏名を連想しない場合は「他人の氏名」を含む商標に該当しないとして特許庁の審決を取り消しました。近年「他人の氏名」を含む商標は登録できないとする規定の適用が厳格化していると言われていた中、本件の知財高裁の判断は画期的と言えます。以上のように商標には、一般的に個人の氏名が想起できるようなものは登録が困難となっております。商標登録を検討している場合にはこれらの点を踏まえて対応していくことが重要と言えるでしょう。
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