無登録のまま仮想通貨販売で起訴、資金決済法の規制について
2021/10/05 金融法務, コンプライアンス
はじめに
登録をせずに仮想通貨(暗号資産)「ワールドフレンドシップコイン」(WFC)を販売していたとして、運営会社代表ら7人が起訴されていたことがわかりました。被害総額は数億円にのぼるとのことです。今回は資金決済法の仮想通貨規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、運営会社代表であった紙屋道雄被告(71)は2018年8月頃、投資コンサルティング会社「テキシアジャパンホールディングス」を巡る出資金詐欺事件の被害者を相手に、被害の救済名目で仮想通貨WFCの購入を勧誘していたとされます。同社は高額配当をうたい、約1万3000人から約460億円を集め2016年夏頃に経営破綻し、経営者は既に懲役8年の実刑判決を受けているとのことです。紙屋被告らはWFCを国に登録しないまま販売し、資金決済法違反の容疑で逮捕されておりました。同被告は容疑を否認していたとされます。
資金決済法による規制
資金決済法63条の2によりますと、暗号資産交換業は内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行ってはならないとされております。そして「暗号資産交換業」とは、暗号資産の売買または他の暗号資産との交換、それらの行為の媒介、取次ぎまたは代理、それら利用者の金銭の管理、他人のために暗号資産を管理することなどを業として行うことを言います(2条7項1号~4号)。ビットコインなど、いわゆる仮想通貨の売買や交換、媒介などのサービス全般が該当します。このような暗号資産交換業を登録をせずに行った場合、罰則として3年以下の懲役、300万円以下の罰金、またはこれらの併科となっております(107条6号)。
暗号資産(仮想通貨)とは
2条5項によりますと、暗号資産は不特定の者に対して、物品の売買やサービスの提供を受ける際の決済手段として使用でき、かつそれ自体も取引の対象となるもの(1号)と、決済手段としては使用しないものの、不特定の人との間で取引し、1号暗号資産と交換できるものとに分けられます(2号)。決済の手段としても利用されているビットコインは1号暗号資産で、それ以外の大多数の暗号資産は2号だと言われております。金融庁のガイドラインでは、1号に該当するためには、不特定性が必要であり、利用可能な店舗等が限定されていないかが判断されるとされます。そして2号についても、発行者による制限なく1号との交換が可能か、交換市場が存在するか等で判断するとされております。
暗号資産交換業の登録
暗号資産交換業を行うには、上記のとおり登録が必要となります。この登録にはかなり厳格な要件が設けられておりますが、大まかには組織面、財産面、業務遂行に関する社内体制、コンプライアンス体制などとなっております。具体的には顧客資産の管理態勢やセキュリティー管理は問題がないか、システムダウンといった事態に対処しうる態勢が取れているか、顧客の情報管理態勢はできているか、そしてマネーロンダリングやテロ資金供与対策ができているかなどが審査されます。財産的基盤も重要で資本金が額は1000万円以上、純資産額もマイナスとなっていないことなどが求められます。また取り扱う仮想通貨も適正なものでなくてはならず、市場で一般に取引されている主要なもの以外では登録は困難と言えます。
コメント
本件で紙屋被告はワールドフレンドシップコインと呼ばれる仮想通貨を、主にテキシア社事件の被害者に無登録で販売していたとされます。同被告は個人間の取引を仲介するシステムを管理していただけで、交換業を行っていたつもりはないと主張していたとのことです。しかし上記のとおり資金決済法では仮想通貨の取引の媒介や取次も交換業に含まれるとしており無登録では違法となります。以上のように仮想通貨交換業を行うには事前に登録を要します。また仮想通貨ネムが大量に流出したコインチェック事件を受け、金融庁では登録審査を相当厳格に行っております。新規に登録されるには、大手金融機関での長年の経験を持つスタッフなど人的要件の他、数十億円規模の財務基盤が必要と言われております。仮想通貨を扱う際には、慎重に検討の上、金融庁などの専門家に相談することが重要と言えるでしょう。
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