山口ファイナンシャルグループの吉村取締役が辞任、役員の退任について
2021/12/28 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
山口ファイナンシャルグループ(FG)の前会長兼CEOの吉村猛氏が取締役の辞任届を提出していたことがわかりました。24日に開催された臨時株主総会で解任議案が審議される予定であったとのことです。今回は役員の解任について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、山口FGの吉村氏を巡っては、消費者金融大手アイフルとの新銀行構想を独断で進めていたなどとして、今年6月の定時株主総会後の取締役会で会長兼CEOを解任されていたとされます。取締役も辞任するよう勧告されていたが、吉村氏は受け入れず、臨時株主総会で同氏解任議案が提案されていたとのことです。同氏は臨時株主総会が開催される前に自ら辞任届を提出したため、補充の取締役の選任議案だけが審議されたとされます。新取締役に曽我氏が可決選任されております。
役員の選任・解任
取締役や監査役などの役員と会社との関係は委任関係とされ(会社法330条、民法643条)、株主総会で選任または解任されることとなります(329条1項、341条、339条1項)。選任に関しては普通決議で足りることとなりますが、役員等の選任解任についての定足数は3分の1未満にすることはできません(341条)。累積投票で選任された取締役や監査役の解任については特別決議を要することとなります(309条2項7号)。また役員等は自らの意思で辞任することができ、後見・保佐開始の審判を受けるなど欠格事由に該当した場合は自動的に地位を失うこととなります。なお取締役の破産については現在欠格事由ではないものの、委任の終了事由(民法653条)であることから一旦退任することとなります。
権利義務取締役と登記
取締役等の役員が任期満了または辞任した場合でも、会社法や定款の規定の員数を満たさなくなる場合は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有するとされます(346条1項)。いわゆる権利義務取締役です。例えば取締役が3人の取締役会設置会社で、そのうちの1人が辞任しても、新たな取締役が選任され就任するまではなお取締役の地位が強制されるということです。これは法により付与された地位であることから、権利義務取締役の地位を辞任することも解任することもできません。そのため権利義務取締役となる場合は、新たに代わりの取締役が選任されるまで退任登記もできないこととなります。ただし当該取締役が死亡した場合や欠格事由に該当した場合は退任することができ、その際は本来の辞任または任期満了を原因として退任登記することとなります。なお会計監査人については権利義務の制度は適用されません。
取締役解任の訴え
取締役の職務執行に関し、不正や法令・定款違反といった重大な事由がある場合、一定の要件を満たす株主は解任の訴えを提起することができます(854条)。提訴できる株主は、総株主の議決権の3%または発行済株式の3%以上を保有(公開会社では6ヶ月前から)している株主です。この3%は数人で共同していてもかまいません。この解任の訴えを提起する前提として株主総会で解任議案が否決されていたことが必要です。訴訟係属中に持株比率が3%を下回った場合は原告適格を失うと考えられておりますが、会社の新株発行などにより持株比率が低下した場合、被告側が原告適格の喪失を主張することは信義則に反するとして制限される可能性があるといわれております。
コメント
本件で山口FGの元会長兼CEOであった吉村氏は、アイフルとの新銀行構想を独断で進めていたとして6月の取締役会で会長兼CEOの地位を解任されていたとされます。その後同氏解任の是非を問う臨時株主総会が招集されることとなりますが、その前に辞任届けが出されました。山口FGは今回選任された曽我氏を含め取締役7名、監査等委員である取締役3名を置く監査等委員会設置会社です。吉村氏が辞任しても員数不足にはならないため権利義務取締役とはならず退任登記ができます。以上のように役員の選任や解任、辞任に関して会社法や登記手続では詳細な規定が置かれており、また株主からの解任請求などにも対応する必要があります。今一度会社法の規定や、登記に必要な手続きなどについても確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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