工場売却を巡りジャパンディスプレイへ助成金10億円返還を命じる判決
2022/04/18 行政対応, 行政法
はじめに
大手液晶メーカーのジャパンディスプレイが白山市への工場建設に伴い受け取った10億円の助成金に関し、建設した工場の売却後も返還義務がないことの確認をジャパンディスプレイが求めていた訴訟で、3月29日、金沢地裁は同社の請求を棄却し、白山市への全額返還義務を負うとしました。この判決を不服としたジャパンディスプレイは4月11日までに名古屋高等裁判所金沢支部に控訴しています。今回は助成金・補助金の返還義務について見ていきます。
事件の概要
ジャパンディスプレイは旧白山工場の建設に伴い、雇用確保と産業振興を目的に2016年12月に白山市から10億円の助成金を受け取っていましたが、韓国・中国メーカーのスマホ向け有機ELの量産拡大により、液晶の需要回復の見込みが立たないことから2019年7月に操業を停止していました。
その後、同社は経営再建の一環としてシャープに412億円で工場を売却します。白山市の助成金の交付要綱では、「5年以内に休廃業した場合の助成金の返還義務」を規定しており、これを受け、市は交付した助成金10億円全額の返還命令を出しました。しかし同社は約2年半の工場稼働に加え、譲渡は工場の運営継続を前提としており、全額の返還義務はないと主張していました。同社は返還義務がないことの確認を求め金沢地裁に提訴していましたが、3月29日に金沢地裁は助成金の目的である雇用確保や産業振興が達成されたとは言えないとして請求を棄却し、同社は全面敗訴となりました。吉川健治裁判長は、判決理由で、旧白山工場が約2年7カ月という短期間の操業で従業員の雇用は白山市内で継続されておらず、地域経済への波及効果をもたらしたとは言えないと指摘し、「助成金交付の趣旨、目的を損なうものと認める」としています。判決を受け、同社は「今後の対応は判決内容を十分に精査し決定する」とコメントしました。
そもそも助成金・補助金とは?
助成金は企業や個人などが行う事業や取り組みを支援するために、基本的に国や地方公共団体が支給するものです。資金の財源は公的資金であり、主に雇用関係や特定の事業に対する支援を目的としています。よく似た制度として補助金がありますが、補助金は採択件数や予算が設定されているため、申請したとしても必ず受けられるものではありません。一方で助成金は給付条件を満たしていればほぼ受け取れるという違いがあります。
助成金・補助金の返還義務
助成金・補助金は融資とは異なり、原則返済は不要です。そのため条件に当てはまればメリットの多い資金調達になりますが、例外として今回の事件のように返還を求められるケースもあります。
助成金・補助金は公的資金を財源としているため、本来の趣旨とは異なる利用を防止することを定めた「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」が制定されています。(通称:「補助金適正化法」)補助金適正化法では「補助金を別の用途に使用してはならない」「補助金により取得した財産を承認なく転用等してはならない」と定めています。これらの違反が発覚し、交付決定の取り消しを受けた場合は全額、または一部の返還が求められることがあります。
また、今回の白山市のように助成金や補助金の交付にあたり、返還義務を規定した交付要綱を設けているケースもあります。
コメント
助成金・補助金は条件や審査さえクリアすれば支給され、返済も不要であるため会社にとってありがたい制度です。特に昨今では新型コロナウイルスの影響を受けた企業をサポートする補助金も増えています。しかし返済不要とは言え、財源は税金などの公的資金であるため、資金の使用用途については厳しくチェックされています。万が一、返還命令を受けた場合には全額の返済のみならず、加算金や延滞金も支払う必要があります。会社として、助成金・補助金を活用する際は、手続きに前に制度の規定や使用用途、返還義務が生じる条件等について入念な確認を行った方がよいでしょう。
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