北弘電社、不適切行為の元取締役に対し損害賠償請求
2022/06/30 総会対応, 訴訟対応, 会社法
はじめに
北弘電社は2021年12月3日、「特別調査委員会の調査報告書を受けた当社の対応に関するお知らせ」という文書で、太陽光発電所建設工事における工事費用等の一部が適時に予算の工事原価総額に反映されていなかったこと、不適切な原価計上が行われていたことについて、特別調査委員会の報告をもとに、再発防止策を打ち出したことを公表していました。そして、今回、北弘電社は、2022年6月22日付の取締役会において、本件に関する責任追及として、元取締役1名に対し善管注意義務違反に基づく損害賠償請求を行うことが決定されたと公表しました。そこで本記事では、不適切行為の概要と今後の展開について見ていきましょう。
不適切行為の概要
上述のとおり、太陽光発電所建設工事における工事費用等の一部が適時に予算の工事原価総額に反映されていなかったこと、不適切な原価計上が行われていたことが不適切行為とされています。この背景には、過去に経験したことのない難易度の高い工事に対して将来の工事原価増加要因となる情報を把握して実行予算を見直すことができなかったこと、管理部門がリスクに応じた管理を実行できなかったこと、適時に部署内で共有して実行予算を見直す体制に欠けていたことなどがあげられています。これを受けて、北弘電社は特別調査委員会を設置。不適切行為の全容解明に向けて調査を実施しました。その後、同社は委員会の報告書の内容を受け、再発防止策を打ち出しています。
再発防止策の内容
北弘電社は、再発防止策として、
①大型案件等重要案件の管理強化
②実行予算変更に関する仕組みの整備と教育
③管理部門及び取締役会によるリスク管理・モニタリングの強化
④契約に依拠したリスク管理
⑤意識改革と責任の明確化
を打ち出しています。大型案件等重要案件の管理強化としては、現場代理人の補助者の設置や管理体制について定めた規程の整備が中心とされています。管理部門及び取締役会によるリスク管理・モニタリングの強化としては、管理部門が実行予算の管理に関与し、現場の状況を直接的に把握することが掲げられています。さらに、取締役の報酬自主返納として、代表取締役社長と常務の月額報酬の50%相当額を3カ月に渡り返納することとしました。
元取締役への損害賠償請求までの経緯
北弘電社は特別調査委員会の調査報告書による原因分析及び提言を受け止め、株主などの利害関係者の信頼回復のための措置を講じてきました。また、それと並行して、独立した外部の法律事務所の弁護士の見解も得ながら、今回の不適切行為に関する取締役の善管注意義務違反の有無を検討しています。その結果、元取締役の関与の度合いが高いこと、同社に生じた損害の内容や程度などの事情を踏まえ、「善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求を行うのが相当」として、元取締役に対し損害賠償請求を行うことが取締役会で決せられました。
コメント
取締役会の決定を受け、北弘電社では、元取締役に対し損害賠償請求の通知をし、その上で、任意の賠償を求める交渉を行う予定であるとしています。また、今後の進展に伴って、必要な場合には速やかに情報を開示するとしています。
本件では、元取締役への損害賠償へと発展していることからもわかるとおり、不適切行為に関する上層部の関与や善管注意義務違反に対する責任が問われるかたちとなりました。上述の同社の再発防止策では、現場の社員スタッフだけでなく、上層部の意識改革や実行予算への直接的な関与が掲げられており、今回の不適切行為発生の原因として、同社の上層部を含めたコンプライアンスの欠如やガバナンスの機能不全などが問題視されたことが見てとれます。
今回の不適切行為の発覚に伴う工事原価総額の見積りの見直し等により、北弘電社は2021年4~6月期の四半期報告書が提出できず、2021年10年14日に札幌証券取引所から監理銘柄(確認中)に指定されていました。あやうく上場廃止となるところを、取引所が指定する最終期限に、なんとか四半期報告書等の提出を間に合わせ、上場廃止を免れています。
このように、コンプライアンスの欠如はときに、会社に甚大なる被害をもたらします。今後、北弘電社は、再発防止策を通じて、さらなる意識改革やリスク管理の向上が求められます。
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