サンリオに追徴課税13億円、外国子会社合算税制とは
2022/08/03 税務法務, 租税法
はじめに
サンリオは2日、東京国税局から約13億円の追徴課税処分を受けたと発表しました。香港と台湾にある子会社の所得も親会社と合算すべきとのことです。今回はいわゆるタックスヘイブン対策税制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、サンリオは2021年3月期までの過去5年間について、香港と台湾にある同社子会社の所得約42億円を親会社と合算して申告すべきと東京国税局に判断されたとされます。日本での納税の不当回避を防止する、いわゆるタックスヘイブン対策税制が適用され、約13億円の追徴課税処分を受けたとのことです。同社は現地でしか行えない事業で、適用除外基準に該当するとし、租税回避目的ではないと反論しております。なお同社は17にも同様の理由で約11億円の追徴課税処分を受け、現在取り消しを求めて係争中とされます。
タックスヘイブンによる租税回避
タックスヘイブン(Tax Haven)とは租税回避地を意味します。パナマやドバイ、シンガポール、モナコ、香港など低税率または税金がかからない国や地域のことです。一般的には法人税率20%以下の地域を言うとされます。これらの低租税地域に子会社を設立し、なんらかの業務を行わせ、その対価を支払い、それを親会社の経費として扱うことによって所得税や法人税を抑えるといったやり方が租税回避行為の一例として挙げられます。それ以外にも、これらの地域に置いた子会社を経由して他の国の企業等と取引し、それによって得られた所得を子会社の所得とすることで、日本の親会社の課税を免れるといった場合もあります。しかしこのような行為は日本の税務当局にとっては非常に問題と言えます。そこで諸外国同様に日本でもタックスヘイブン対策税制が取られております。
外国子会社合算税制
日本でも1978年にタックスヘイブン対策税制が導入されました。現在では外国子会社合算税制と呼ばれております。外国子会社合算税制は、外国子会社を利用した租税回避を防止するため、一定の要件に該当する外国子会社の所得を日本の親会社の所得とみなして合算し、日本で課税するというものです。これは簡単に言うと、日本の親会社の租税回避行為に該当するか否かを、外国子会社が真に実態を持った経済活動を行っているかによって判断し、租税回避が該当するなら合算するという制度です。その判断基準として日本では4つの経済活動基準が設けられております(租税特別措置法66条の6第2項3号)。これらの基準のうち1つでも満たさない場合で、当該国での負担税率が20%未満であれば合算課税が行われることとなります(同5項2号)。
経済活動基準
外国子会社合算税制での経済活動基準は、(1)事業基準、(2)実態基準、(3)管理支配基準、(4)非関連者および所在地国基準の4つとされます。事業基準は、その事業内容が株式保有や工業所有権等の提供、航空機のリース等でないこととされます。実態基準は、当該国の本店所在地に主たる事務所や店舗、工場などの施設を保有していることです。これらの固定施設を持たない場合は経済の実態があるとは言えないということです。管理支配基準は、当該国に所在する会社が現地で事業の管理・運営を行っているということです。具体的には株主総会の開催や会計帳簿の作成などです。そして非関連者および所在地国基準は、金融業や貿易業の場合、非関連会社と50%超の取引があること、それ以外の小売業等の場合は主に現地で事業を行っていることです。つまり日本の親会社とだけこれらの事業を行っている場合は事業実態が有るとは言えないということです。
コメント
本件でサンリオの香港・台湾の子会社所得約42億円がいわゆるタックスヘブン対策税制の適用を受けるとして日本で合算課税されると判断され、約13億円の追徴課税を受けました。香港での法人税は16.5%とされ、また台湾は2019年度までは19%(現在は20%)とされます。経済活動基準のいずれかに該当しない場合は合算課税の対象となります。詳細は不明ですが、現地子会社の事業が主に現地で行われているものとは言えないと判断されたのではないかと考えられます。
以上のように現在日本では税率が低い、いわゆる租税回避地に子会社を設立し、その子会社を経由したり、その子会社と取引を行うことによって、所得を圧縮するといった場合には、原則として子会社の所得も合算される扱いとなります。海外に現地法人を設立する場合、特に税率が低い国である場合はこれらの基準を念頭に、租税回避とならないよう留意していくことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- まとめ
- 中国:AI生成画像の著作権侵害を認めた初の判決~その概要と文化庁「考え方」との比較~2024.4.3
- 「生成AIにより他人著作物の類似物が生成された場合に著作権侵害が認められるか」。この問題に関し...
- セミナー
- 潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- 優秀な法務パーソンを自社に迎えるには ~法務専門CAが語るリアル~(アーカイブ)
- 2025/01/22
- 12:00~12:30
- ニュース
- 厚生労働省、企業にカスハラ対策義務化へ2025.1.10
- NEW
- カスタマーハラスメント、通称“カスハラ”。顧客や取引先などから過剰な要求を受ける、不当な言いが...
- 業務効率化
- クラウドリーガル公式資料ダウンロード
- NEW
- 解説動画
- 岡 伸夫弁護士
- 【無料】監査等委員会設置会社への移行手続きの検討 (最近の法令・他社動向等を踏まえて)
- 終了
- 視聴時間57分
- 業務効率化
- ContractS CLM公式資料ダウンロード
- 弁護士
- 大谷 拓己弁護士
- 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所
- 〒550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1丁目6−1 JMFビル西本町01 9階
- 解説動画
- 奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
- 登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
- 潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分
- 弁護士
- 福丸 智温弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号