大阪地裁、アバターへの中傷も名誉毀損に当たると判示
2022/09/02 IT法務, 刑事法, プロバイダ責任制限法
はじめに
自身の分身としてデジタル上で表示される「アバター」への中傷が名誉毀損に当たるかが争われた訴訟で31日、大阪地裁は名誉毀損に当たるとの判決を出しました。アバターに個人の体験や経験が反映されているとのことです。今回は名誉毀損とプロバイダへの開示請求について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告はアバターの姿で動画投稿する「バーチャルユーチューバー」(Vチューバー)の女性で、ツイッターのフォロワー数は100万人を超えているとされます。女性は昨年5月、インターネット上の無料掲示板に「仕方ねぇよバカ女なんだから」「母親がいないせいで精神が未熟なんだろ」などと中傷されていたとのことです。女性は名誉毀損に当たるとして法的手段を取るため、プロバイダーに投稿者の個人情報の開示を求め提訴しました。プロバイダー側はアバターに向けられたものであり、女性へのものとは言えないと反論していたとされます。
名誉毀損とは
刑法230条1項によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とされております。「公然」とは不特定多数の者が認識できる状態にすることを言います。インターネット上で投稿したり掲示板に書き込むことが典型例と言えますが、身近な数人に伝えるだけでも、広まる可能性があれば該当します。「事実を摘示」とは「○○は窃盗で逮捕されたことがある」「○○は不倫をしている」といった具体的な事実を含む内容を示すことです。具体的事実が無い誹謗中傷は侮辱罪に該当する可能性があります。「名誉を毀損」とは社会的評価を低下させることを言います。名誉毀損の対象は「人」となっておりますが、法人や団体も含まれます。
発信者情報開示請求
プロバイダ責任制限法4条によりますと、侵害情報の流通によって、請求者の権利が侵害されたことが明らかであり、損害賠償請求の行使その他開示を受けるべき正当な理由がある場合は、プロバイダー等に発信者の情報開示を請求することができます。請求を受けたプロバイダー等は、発信者の意見を聴取して開示するかを判断します(同2項)。請求を受けたプロバイダーが任意に開示しない場合は訴訟によることとなります。具体的な流れとしては、掲示板等のプロバイダーにIPアドレスとタイムスタンプの開示を求め仮処分申し立てを行います。そしてアクセスプロバイダーに発信者の氏名と住所の開示を求める訴えを提起する流れとなるとされます。そして最終的にその情報に基づいて損害賠償請求等を行うこととなります。
令和3年改正法による開示請求
上記のように現行法の手続きでは、被害者はIPアドレス等を求める仮処分申し立て、アクセスプロバイダーに対する訴訟、最終的な民事訴訟と3段階を踏む必要があり非常に負担が大きいものとなっております。そのため要する時間と労力、費用を嫌って泣き寝入りを余儀なくされる例も少なくありませんでした。そこで令和3年改正でより迅速簡便な非訟手続きが創設されます。この手続を申し立てると、被害者は裁判所が掲示板等のプロバイダーにアクセスプロバイダーの名称を提供するよう命じることを求めることができます(改正法8条)。これは開示命令よりも要件が緩やかで、これによって迅速にアクセスプロバイダーに情報開示命令を申し立てることが可能となります。この改正法は今年10月1日から施行予定です。
コメント
本件でインターネット掲示板で中傷を受けた女性は、いわゆるアバターと呼ばれるデジタル上の分身の姿で活動しておりました。そのため本人への名誉毀損に該当しないのではないかが争点となっておりました。大阪地裁は、アバターの言動は女性自身の個性を生かし、体験や経験を反映したもので女性自身が表現行為を行っている実態があるとして、アバターへの中傷を本人への名誉毀損と認めました。その上でプロバイダー側に投稿者の情報開示を命じました。デジタル上の分身の法主体性を認めた画期的な判決と言えます。近年インターネット上での誹謗中傷が社会問題化しております。上でも取り上げた発信者情報開示制度も法改正により利用しやすくなり、また名誉毀損に該当しない侮辱行為も厳罰化されます。自社が被害を受けた場合に備え、法制度を把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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