「フリーランス保護新法」制定への動き
2022/09/13 契約法務, コンプライアンス, 法改正, 下請法
はじめに
政府は企業等に所属せずに個人として働く「フリーランス」の労働環境を整備するため、新たな法制度を制定する方針を固めました。秋の臨時国会で成立を目指すとのことです。今回はフリーランスを取り巻く問題と法規制について見ていきます。
事案の概要
政府の試算では、フリーランスとして働く労働者は約462万人で、就業者全体の7%を占めるとされます。業種もITやデザイン、配送、建設など多岐にわたります。近年これらのフリーランスの増加に伴い、企業側から一方的に契約内容を変更されたり、収めた商品の受取拒否がなされるなど、個人であることの立場の弱さから受ける様々な不利益、問題点が指摘されております。政府の調査ではフリーランスの4割が取引先とトラブルを経験したことがあると回答しており、これら個人事業者の保護が急務となっております。現在一定の範囲では下請法が適用されますが、ほとんどの場合は適用外となっており、政府はこれらの場合もフリーランスを保護する新法制定を目指しております。
下請法による規制
下請法によりますと、親事業者は下請事業者に対して、(1)受領拒否、(2)支払遅延、(3)下請代金の減額、(4)返品、(5)買いたたき、(6)購入・利用強制、(7)不当な経済的利益の提供要請、(8)不当な給付内容の変更・やり直しなどを禁止しております(4条1項各号)。立場の強い親事業者が、立場の弱い下請事業者に対して不当に受け取り拒否や契約内容の変更、代金の減額等を一方的に行うことを禁止しております。また書面の交付義務(3条)や、書面の作成・保存義務(5条)、代金支払い期日を定める義務(2条の2)、遅延利息の支払義務(4条の2)なども規定されております。違反した場合は公取委による勧告が規定され(7条)、書面の作成、交付義務に違反した場合は50万円以下の罰金が規定されております(10条)。しかしこの下請法が適用される親事業者は資本金が1千万円を超える場合となっており、1千万円以下の企業には適用されないこととなります(2条1項~8項)。
優越的地位の濫用
自己の取引上の地位が相手方に優越している一方当事者が、その地位を利用して取引の相手方に対し、正常な商慣習に照らして不当な不利益を与えることを優越的地位の濫用と言います(独禁法19条、一般指定14項)。大規模小売店が立場の弱い納入業者に、無償で従業員を派遣させて棚卸し業務をさせたり、その他財産上の利益を提供させるといった行為が典型例と言えます。公取委にガイドラインによりますと、優越的地位の有無は、取引依存度、市場における地位、取引先変更の可能性、取引をすることの必要性などを総合的に考慮して判断するとされております。違反した場合には排除措置命令(20条)、また課徴金納付命令が出されることとなります(20条の6)。独禁法は発注者が事業者であれば適用されます。
新法の概要
上記のように下請法では発注側の企業の資本金が1千万円を超えない場合は適用されません。しかし発注側の企業の4割は資本金1千万円以下と言われております。そこで政府案では下請法が適用されない企業でも、発注側の企業に対し、仕事を募集する際に、報酬額や仕事の内容、納期などを明示し、契約の書面や電子データの作成・交付を義務付けるとしております。書面の作成・交付義務は下請法でも最も重要な規定とされており、発注側が受領拒否や減額などを行っても、下請業者側は事後訴訟によって損害賠償請求などを行うことが可能となります。そして契約後に業務を途中で解除、または更新しない場合は30日前までに予告すること、またフリーランス側に落ち度がないのに報酬を減額したり、受領拒否をすることの禁止も盛り込まれます。
コメント
近年企業などの組織に所属せず、個人として仕事を請け負うフリーランス労働者が増加しております。労働形態の多様性が増し、自分に合った働き方を追求する労働者が増えたと言えます。反面、個人事業者である弱みとして様々な不利益を被る事例が報告されております。会社側の都合で一方的に受け取りを拒否されたり、代金を減額されるといった事例が急増しており、上記のように既存の法制度では保護しきれなくなっております。そこで政府はフリーランス保護のための法制度の導入を目指しております。この新法の違反については、公取委が調査や勧告、必要に応じて報告命令や立入検査もできるよう盛り込まれる予定です。以上のようにこれまでは資本金が1千万円を超える企業については下請法で保護されてきましたが、新法によってそれ以外の場合もフリーランスが保護されます。今後の施行日などについても政府の動きに注視して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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