【書籍紹介】株主管理・少数株主対策に「使える」実務書が発刊
2023/02/01
「少数株式高値売却」「非上場株式を現金化」こんな広告見たことありませんか?近年、非上場の会社を舞台に少数株主が関係する裁判事例が増えています。安定的な経営には少数株主対策が欠かせませんが、その重要性が世間ではあまり認識されていないのが現状です。
そのような状況の中、日本加除出版から『株主管理・少数株主対策ハンドブック』が発刊されました。編著者である弁護士・加藤真朗先生に少数株主対策のポイントや本書の特長について伺いました。
本文一部抜粋
事例1─ 4 所在不明株主の株式の買取りを試みる場合
(問題)
X社の代表取締役Aは、後継者がいないため、Y社に対して株式を譲渡することによりM&Aを行いたいと考えています。しかし、X社の株式の15%を保有する少数株主のBが消息不明で通知・催告が到達しない状況となっていることが判明したため、Y社との交渉が暗礁に乗り上げそうになっています。Bの保有する株式をX社あるいは代表取締役Aにて買い取って、株式の集約を図りたいと考えているのですが、何か方法はあるのでしょうか。
(解説)
会社法は、所在不明株主が存在することによる不都合を解消するための手段として、所在不明株主の株式(以下「対象株式」といいます。)について、一定の要件の下で、競売等により対象株式を売却し、その帰属を移転させる制度を設けています(中略)。
所在不明の株主の株式売却許可を得るための要件は、次のとおりです。
要件1 当該株主に対する通知または催告が5年以上継続して到達していないこと(以下略)。
※「株主管理・少数株主対策ハンドブック」P75より
※文字方向(縦→横)など、本記事では、実際の書籍とレイアウトが異なるところがございます。何卒、ご了承ください。
著者インタビュー
加藤真朗 弁護士(加藤&パートナーズ法律事務所 代表弁護士)
これまでに株主代表訴訟(株主側・会社役員側両方)や、会社経営権(支配権)を巡る争い、会社と少数株主の争いなど、会社法に関係する訴訟・非訟事件を多数受任。また、多くの会社法関係の裁判経験を活かし、会社法関係のご相談や、内部統制システム構築支援といった業務も行っている。
なぜ少数株主に関する相談が急増しているのか?
―――近年、株主管理や少数株主対策の重要性が高まっているのはなぜでしょう?社会的な背景について教えてください。
「世の中の権利意識の高まり」と「情報へのアクセスのしやすさ」が挙げられます。専門家でなくてもインターネットなどから知識を得ている人も多くいますし、不利益を被ったと思った時に法的に訴える手段が存在することが少し調べればわかってしまいます。一昔前なら表面化しなかったような問題が裁判になる事例も多くなっています。
―――「株式」に対する意識も変わってきているのでは?
かつては、親族や幹部社員に株式を持たせることが愛情や評価を表す意味もありました。しかし、非上場の会社だと配当がないことも多いし、株式を持っていてもむしろ相続税の負担を招く負の財産になるだけなんですね。だから、最近は株式を換価したいニーズが高まっているのでしょう。
―――今後も少数株主に関係した紛争は増えていくのでしょうか?
増えていくと思いますよ。じつは少数株主に関する相談は以前からあったんです。ただ、ここ数年で少数非上場株式の買い取り業者が台頭してきました。ネット広告も大量に出稿されて世間の人が頻繁に目にするようになっています。ですから、今後はさらに少数株主の問題が顕在化していくと予想されます。
少数株主対策は会社経営の盲点
―――少数株主対策を適切に行わないと実際どんなリスクが生じるのでしょう?
簡単にいえば、「紛争を呼ぶ」。この一言に尽きます。最近、私が相談を受けた事例では、ある会社の社長なのですが、株式を全部は持っていない。でも、肩書きは代表取締役社長だから、思い通りに経営をやっていた。しかも、他の中小企業の多くと同様に株主総会を一度も開催していない。役員の報酬は株主総会の決議が必要なのに、それがなかったんですね。いざ代替わりをする段になって、報酬の根拠がないから、「返せ」と訴えられたわけです。時効にかかるまでの分ですから、相当な金額になります。
―――そもそも、なぜ株主管理や少数株主対策がおろそかになってしまうのでしょう?
会社の社長というのは、やはりビジネスを優先するわけです。どうしても株式の扱いは後回しになってしまう。一定の規模の会社なら法務部があって法的手続きも適切に行っていますが、小さい会社だとそうでない場合も多いのです。
―――ということは、株主管理が不十分な会社は非上場が多いのでしょうか?
たしかに、たとえば大阪地裁商事部(第4民事部)で紛争になる事例は、上場より非上場のほうが圧倒的に多くなっているようです。ただ、法務部を持つ大きな規模の会社であっても、コンプライアンス、つまり会社法に則って株主総会を開催する、といったことには注意しているのですが、資本政策としての株式をどう扱うかは別の問題だったりします。ですから、上場であっても、オーナー系の比較的閉鎖的な会社であれば、非上場の会社と同様の問題が生じる可能性が考えられます。
―――最近ですと、大塚家具の“お家騒動”が記憶に新しいのですが、大塚家具は上場会社でしたね。
娘に会社を譲る気がなかったのなら、父親はしっかり株式を持っておくべきでした。株主対策をおろそかにしていると、支配権を失ったり、予想もしなかった請求を受けたりする恐れがあるわけです。
―――そんな状況の中で、『株主管理・少数株主対策ハンドブック』が発刊されたわけですが、本書の特長を教えてください。
ひとつは、「チェックリスト」をつけたことです。これを活用すれば、自社にどのような問題があるか把握できるようになっています。図や書式のサンプルを多く掲載しているのも特長です。クライアント会社に献本したところ、「とてもわかりやすい」と喜ばれました。本書のメインターゲットは弁護士ですが、税理士や法務部の担当者など、他ジャンルの人でも理解しやすいよう、できるだけ平易な記述を心がけました。
―――実務書として「使える」と評判のようですね。
そうなんです。たとえば、ある問題の解決策として、A・B・C・D・Eという方法があるとします。Aについて本書より詳しく書かれた実務書はあります。あるいは、A〜Eについて網羅的に解説した本もあります。しかし、問題が生じたときにA〜Eの中からどの方法を選択すればいいのか、どういった場合にAの方法を採用すべきなのか、そこまで述べた本は珍しいと思います。その点を細かく解説しているところが「使える」という評価につながっているのだと思います。
―――読者にどんなふうに本書を活用してほしいとお考えですか?
本書は前半で株式の重要性を説き、後半で議決権を確保する方法やコンプライアンス経営について解説しています。これまでお話ししてきたように、世間には株式について勘違いしている人が多いんですね。本書で株式に対する意識を高めていただくと、紛争予防や問題解決の端緒になると思います。私が日々の業務の中で痛感するのは、株式を大切にしなさすぎる、ということです。せっかく事業で成功したのに、そこに注力しすぎて、株式に無頓着であるがゆえに思わぬ結果を招いてしまう。これまでそういう事例を数多く扱ってきました。辛い目に遭う人を少しでも減らしたい。そんな想いもこめて本書を制作しました。
―――ありがとうございました。
(文章構成 米田政行)
紹介書籍
~株式が分散すればするほど、少数株主が増えれば増えるほど、潜在的な紛争リスクが高まります~
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