そごう・西武売却で株主が提訴、取締役の行為差止について
2023/04/20 商事法務, 訴訟対応, 会社法
はじめに
セブン&アイホールディングスによる百貨店「そごう・西武」の売却をめぐり、株主2人が売却の差し止めを求め提訴していたことがわかりました。会社に回復できない損害が生じるおそれがあるとのことです。今回は会社法が規定する取締役の行為差止め請求を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、セブン&アイホールディングスは百貨店「そごう・西武」の株式をアメリカの投資ファンドに売却する決定をしたとされます。米ファンドは西武池袋本店の一部フロアに家電量販店大手ヨドバシカメラを出店させることを計画しているとされ、当初の計画よりもヨドバシの出店フロアが拡大しているとされます。これに対しセブン&アイの株主2人は、大量の百貨店従業員を退職に追い込むに等しく、また売却価格の2500億円も不当に安価であるとして株式売却の差止めを求め東京地裁に提訴しました。なお差止めを求める仮処分申し立ては先月棄却されております。
取締役に対する監督
取締役は会社に対し忠実義務や善管注意義務を負っており、法令や定款に違反する行為によって会社に損害を生じさせた場合は会社に対しその損害を賠償する義務を負います。そのため取締役に対しては、取締役会、監査役、株主などによる監督がなされます。まず取締役会は取締役の職務執行を監督します(会社法362条2項2号)。また取締役会を構成する各取締役も相互に監督を行います。次に監査役も取締役の職務執行を監査し、是正する権限を持っております(381条1項)。取締役の法令または定款違反のおそれがある場合、監査役や取締役や取締役会に報告したり、取締役会を招集することもできます。そして監査役は取締役の違法行為差止め請求をすることができ(385条1項)、会社に対し賠償するよう請求することもできます(423条1項)。
株主による違法行為差止め請求
取締役が法令や定款に違反する行為を行い、これにより会社に損害が生じた場合、株主は会社に代わって損害賠償請求訴訟を提起することができます(847条1項)。しかしこれはあくまでも事後的な回復手段であり、まだ行為が行われていない段階で利用するものではありません。そこで会社法では株主に事前の差止め請求を認めております(360条1項)。株主(公開会社では6ヶ月前から引き続き株式を保有)は取締役が会社の目的の範囲外の行為、その他法令・定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがある場合に、会社に著しい損害が生じるおそれがあるときは差止め請求をすることができます。なお上記のように監査役設置会社の場合、このような請求は本来監査役の職責であることから、「著しい損害」では足りず「回復することができない損害」の場合に限られます。
対象となる違法行為
対象となる取締役の行為としては法令または定款に違反する行為とされております。金商法や独禁法などに違反する行為や、会社法に違反する行為、また定款に違反するものとして会社の目的を逸脱した行為などが考えられます。また善管注意義務や忠実義務に違反する行為も含まれるとされております。しかし一方で取締役には経営判断についての広い裁量権が認められており、取締役の判断によって会社に損害が発生しても直ちに取締役に責任が生じるわけではなく、その経営判断の過程や内容に著しく不合理な点が無い場合は注意義務違反は無いとされます(経営判断原則)。この判断にあたっては、その業界での通常の経営者が有すべき知見や経験を基準として、情報収集や検討を適切に行ったかなど諸般の事情を総合的に考慮されることとなります。
コメント
本件でセブン&アイの株主2人は百貨店そごう・西武の売却が、著しく安い金額であり、また売却先の米ファンドの計画では西武池袋本店で多くの従業員が退職に追い込まれるおそれがあり、解雇権濫用にあたるとしております。セブン&アイは指名委員会等設置会社であることから「回復することができない損害」のおそれが必要であり、取締役会の決定が著しく不合理なものであるかが今後の争点となっていくものと予想されます。以上のように取締役の法令・定款に違反する行為や善管注意義務に違反する行為に対しては、監査役や株主は差止め請求をすることができます。しかしそのハードルはかなり高く、差止請求訴訟で善管注意義務違反が認められる例は多くないといえます。どのような場合にどのような訴訟が提起されるのか、またその要件はどのようなものかを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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