最高裁が納骨堂訴訟で周辺住民の利益認める、第三者の原告適格について
2023/05/10 訴訟対応, 民事訴訟法
はじめに
大阪市淀川区で新設されたビル型納骨堂をめぐり、市が出した経営許可の取り消しを周辺住民が求めていた訴訟で9日、最高裁が原告適格を認める判決をだしました。審理は大阪地裁に差し戻されるとのことです。今回は行政訴訟と原告適格について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、大阪府門真市の宗教法人が大阪市淀川区に6階建てのビル型納骨堂の建設を計画し、2017年2月に大阪市が経営許可をだしたとされます。しかし大阪市の規則ではこれらの施設の「おおむね300メートル以内に学校、病院、人家がないこと」が条件となっているとされ、周辺住民は大阪市が出した経営許可は違法であるとして取消を求め提訴していたとのことです。一審大阪地裁は自治体の許可は公益的見地から行われ、個別の住民の利益を保護していないとして周辺住民の原告適格を否定しました。これに対し二審大阪高裁は一転して原告適格を認め地裁に差し戻す判決を出しておりました。
行政処分と抗告訴訟
国や自治体などの行政による許認可や経営許可取消など、いわゆる行政処分について不服がある場合に提起する訴訟を抗告訴訟と言います(行政事件訴訟法3条1項)。この抗告訴訟にはいくつかの種類があり、違法な行政処分の取消を求める訴訟を取消訴訟(同2項)、行政処分の効力の有無の確認を求める無効等確認訴訟(同4項)、相当な期間内に処分をしない場合の不作為の無効確認訴訟(同5項)、裁判所により行政に処分するよう命じる義務付け訴訟(同6項)、すべきでない処分がなされようとしているときの差止訴訟(同7項)などが挙げられます。この抗告訴訟の対象となるのはあくまで「行政処分」となります。行政処分とは公権力が直接国民の権利や義務を形成したり範囲を確定するといったものとされており(最判昭和39年10月29日)、公有地の払い下げや用途地域指定、都市計画の地区計画決定などは否定されております。
取消訴訟の原告適格
行政処分がなされた際に、その処分を受けた当事者は原則として取消訴訟を提起できます。それでは周辺住民など当事者以外の者はどうでしょうか。この問題をいわゆる第三者の原告適格と言います。取消訴訟の原告適格が認められるためには、取消を求めるにつき「法律上の利益」を有しなければなりませんが、処分の根拠法令が第三者の利益についても保護しようとしている場合に原告適格が認められることとなります。その判断にあたっては、根拠法令の文言だけでなく、その関連法令も含めて趣旨・目的、処分によって害される利益の内容や性質、態様や程度を考慮して判断するとされております(9条2項)。判例では「不特定多数の具体的利益を一般的公益の中に吸収」させず「個別的利益」としても保護する趣旨が読み取れる場合に法律上保護された利益が認められるとしております(最判平成17年12月7日)。
原告適格に関する裁判例
第三者の原告適格が認められた例としては、飛行機騒音により健康障害を受ける周辺住民(最判平成元年2月17日)、原子炉の周辺住民(最判平成4年9月22日)、都市計画事業の周辺住民(最判平成17年12月7日)、公衆浴場営業許可に関する既存の同業者(最判昭和34年1月19日)、放送免許の際の同業者(最判昭和43年12月24日)などが挙げられます。これに対して原告適格が否定された例としては、質屋営業許可に関して既存の同業者(最判昭和34年8月18日)、公有水面埋立免許の際の周辺漁業関係者(最判昭和60年12月17日)、風俗営業許可の際の周辺住民(最判平成10年12月17日)、道路拡幅事業認可の際の周辺住民(最判平成17年12月7日)、ジュース表示認定に関する一般消費者(最判昭和53年3月14日)、墓地経営許可に関する周辺住民(最判平成12年3月17日)などがあります。
コメント
本件で一審大阪地裁は周辺住民の原告適格を否定したものの、二審大阪高裁および最高裁は市の規定に「人家からおおむね300メートル以内にある時は許可しないが、付近の生活環境を著しく損なうおそれがない場合には許可できる」とあることから、住民が平穏に日常生活を送る利益を保護する趣旨だとし原告適格を認めました。住民個々人の生活環境を個別的法益として認めたものと考えられます。以上のように行政訴訟はその処分の適法性判断以前にそもそも訴える資格があるのかという大きなハードルがあります。その判断は処分の根拠規定や関連法令を精密に読み込む必要があり、似た事例でも裁判所で判断が分かれることがしばしばあるなど判断が非常に困難な問題と言えます。許認可に際して周辺住民が反対している場合は真摯な説明と説得とともに訴訟への対応も準備していくことが重要と言えるでしょう。
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