ニデックが過剰配当を釈明、会社法の財源規制について
2023/06/28 商事法務, 会社法
はじめに
モーター大手「ニデック」(旧日本電産)は2日、昨年行われた中間配当と自社株買が分配可能額を超過して実施されていたと発表しました。社内での認識不足が原因とのことです。今回は会社法の財源規制について見直していきます。
事案の概要
ニデックの発表などによりますと、同社は2022年10月24日開催の取締役会で、1株あたり35円の配当を行うことを決議し実施したとされます。しかしその後の調査で会社法および会社計算規則により算定した分配可能額を超過していたことが判明したとのことです。また2022年9月1日から実施していた自己株式の取得についても同様に分配可能額を超過していたことが判明したとされます。同社および同社の会計監査人であるPwC京都監査法人も分配可能額の超過を見落としていたとされ、超過して配当した分については株主から返還を求めないとのことです。同社は同日付で外部調査委員会を設置しており、同委員会は刑事責任までは認められないとしております。
剰余金配当と分配可能額
株式会社は原則として株主総会の普通決議により剰余金配当を行うことができます(会社法454条1項)。また会計監査人設置会社でかつ、取締役の任期が1年であり定款で定めることによってこの配当の決定を取締役会に授権することも可能です(459条1項)。これらの会計監査人設置会社でなくとも、定款で定めることにより、1事業年度の1度限り取締役会の決議で配当を行うことが可能です(454条5項)。これを一般に中間配当と言います。これら剰余金配当は分配可能額が有る限り何度でも行うことが可能です。しかし分配可能額を超えて行われた配当は違法となり、受けた株主、関与した業務執行取締役などは連帯して返還する責任を負います(462条1項)。さらに違法配当を行った業務執行者等には罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(963条5項2号)。
分配可能額
分配可能額の計算は会社法と会社計算規則で定められており、非常に複雑なものとなっております(446条1号、計算規則177条等)。おおまかには貸借対照表の純資産の部に計上されている「その他資本剰余金」と「そのた利益剰余金」の合計から自己株式帳簿価格を控除したものが計算の基礎となります。実際には決算日以降の自己株式処分損益や減資差益など、もっと複雑な計算がなされますが最低限、この点を抑えておけば十分と言えます。さらに剰余金配当をすることによって純資産額が300万円未満なる場合は配当はできません(458条)。また配当の際には利益準備金等が資本金の4分の1に達するまで配当額の10%を積み立てる必要があります(445条4項)。
財源規制が及ぶもの
上記のとおり剰余金配当には分配可能額の範囲内という財源規制が及びます。それ以外にも株主との合意や取得請求権付株式、取得条項付株式、相続人等から自社株を買い取る場合などの自己株式取得、所在不明株主の株式売却による自己株式の買取、端数処理として売却される株式を自社で買い取る場合などが挙げられます。譲渡制限株式の譲渡を承認せず、会社が買い取る場合も同様です。これに対し、事業の全部譲渡や吸収合併、吸収分割などの組織再編行為によって自社株を取得する場合は財源規制は及びません。これらの場合は承継する財産から自己株式だけを除外することが困難であり、また別途債権者異議手続きがなされことなどから財源規制の対象から除外されております。また単元未満株の買取請求があった場合も同様です。これは株主の投下資本の回収を保障する目的です。
コメント
本件で外部調査委員会の調査報告によりますと、違法配当が行われた原因として担当役職者の知識不足、経理部と財務部との連携が取れていなかったこと、社内で配当を検討する際に利益剰余金だけを基準にしていたこと、その他財源規制に関する法的規制について身長な対応がなかったことなどが挙げられております。また先日の会長による釈明でも、公認会計士が見てくれるという安心があったなどとしております。超過分は株主に返還を求めないとしていることから、同社業務執行役員等が負担するものと考えられます。以上のように剰余金配当その他自己株式取得等には厳格な財源規制が置かれております。分配可能額も実際には非常に複雑な計算を要します。配当などを検討する際には公認会計士や税理士など専門家に相談しつつ慎重に判断していくことが重要と言えるでしょう。
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