総務省が制度改革の必要性指摘、資本金1億円問題について
2023/11/10 商事法務, 税務法務, 租税法, 会社法
はじめに
総務省の有識者会議は6日、大企業が資本金を1億円以下に減資して節税する動きが増加していることを踏まえ、制度の改革が必要との見解を示しました。11月中に提言をまとめる見通しとのことです。今回は資本金1億円問題について見直していきます。
資本金とは
会社は設立の際に資本金の額を定めることとなりますが(会社法32条)、この資本金とは一体どのようなものなのでしょうか。会社が株式を発行し出資者に引き受けられて出資されると、その資金は原則として資本金となります。この資本金は一般に会社財産を確保するための基準となる一定の数額と言われ、常に出資された金銭がそのまま資本金と一致するわけではなく、会社の事業に運用されることとなります。運用されて使われても資本金が同時に目減りするわけではなく、資本金を減少させるには会社法の規定に則って資本金減少手続きを経る必要があります。このように資本金は会社債権者を保護するための観念的な基準に過ぎないと言えます。そしてこの資本金の額を基準として各種法制度で会社の扱いが異なってきます。
会社法上の扱い
会社法制定以前の旧商法下では株式会社は設立に際して最低1000万円の資本金が必要とされておりました。現在ではそのような規制はなく、資本金は1円でも設立することが可能です。会社法では、最終事業年度に係る貸借対照表において、資本金として計上した額が5億円以上の会社(負債の合計額が200億円以上の場合も)を大会社と定義しております(2条6号)。大会社に該当する場合、会計監査人の設置義務(328条1項、2項)や内部統制システムの構築義務(348条、362条)、貸借対照表に加えて損益計算書の公告義務(440条1項、2項)、精算段階での監査役設置義務(477条4項)などが定められております。また同時に公開会社でもある場合は監査役会または委員会の設置義務(328条1項)、取締役の個人別報酬に関する方針決定義務(361条7項1号)、連結計算書類作成義務(444条3項)などが規定されております。このように大会社となった場合は会社の機関設計などで大きな負担となると言えます。
税制上の扱い
上記の会社法での扱いと異なり、法人税法上では資本金の額が1億円以下の会社を中小企業と分類しております。中小企業に分類されますと、軽減税率の適用、繰越欠損金の控除、欠損金の繰戻還付、800万円以下の接待交際費を全額損金に参入、外形標準課税は対象外、中小企業経営強化税制の適用、少額減価償却資産特例などの優遇税制を受けることができます。法人税は通常は23.2%となっておりますが、中小企業扱いの場合、800万円以下の所得には19%が適用されることになります。また、赤字の際は最大で10年間、欠損金として次の事業年度に繰り越すことが可能です。そして30万円未満の資産については年間合計300万円まで全額経費として計上することもできます。このように中小企業は税務上の優遇措置を受けることができます。
コメント
以上のように会社の資本金は様々な法制度上の基準となっております。会社法では大会社となった場合、会計監査人等の設置が必要となってきたり、一定の措置が義務付けられるなど扱いが厳格になります。税制上でも資本金を基準として税務上の扱いが異なってきます。また細かい規定ですが、役員変更に関する商業登記の際の登録免許税も、資本金1億円までの場合は1万円、1億円を超える場合は3万円となっております。近年大企業が資本金を1億円以下に減資することによって税務上の優遇措置を受ける動きが目立っております。中小企業の優遇措置は本来、経営体力の乏しい小規模企業の救済といった意味合いが強いところ、実際には経営規模が大きな会社が数字だけを減少させて節税に利用している点が問題視されているものと考えられます。資本金は本来会社の事業規模を適切に反映することも望ましいと言えます。減資による節税を検討している場合はこれらの点も留意していくことが重要と言えるでしょう。
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