破産手続前に高級車を別会社に譲渡で逮捕、詐欺破産罪とは
2023/12/13 コンプライアンス, 事業再生・倒産, 破産法
はじめに
自身の会社が所有する高級車を不当に別会社に引き渡し、破産手続きを進めたとして兵庫県警が11日、自動車販売・整備会社「FATE」(宝塚市)の元社長(37)を逮捕していたことがわかりました。総額約4200万円とのことです。今回は破産法が規定する詐欺破産罪について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、FATEは2021年9月に破産手続開始決定を受けたものの、同年3月に同社が所有するイタリア製高級車ランボルギーニなど9台を同社元社長自身が実質的に経営する別会社に無償譲渡していたとされます。同年10月に破産管財人から車の保管場所を尋ねられた際、帳簿上の車両で実在しないなどと虚偽の説明をしていた疑いが持たれているとのことです。兵庫県警はこれらの車を別会社が売却し、総額約4200万円を得ていたと見ております。なお元社長の男については兵庫県警が四国銀行から融資金4000万円を詐取したとして詐欺の疑いでも逮捕しており、神戸地裁に起訴されております。
破産と破産手続
破産法では、会社が支払不能、または債務超過に陥った場合に破産手続開始の申立てを行うことができるとしております(16条1項)。支払不能とは、債務者が支払能力を欠き、弁済期にある債務について一般的かつ継続的に返済することが困難な常態であることを言います。一時的な資金不足では該当せず、継続的に弁済ができない状況である必要があります。債務超過とは、債務者の財産だけでは債務を完済することができない状態のことを言うとされます。会社の財産全てをもってしても完済できない場合です。会社がこのような状況に陥った場合に破産手続開始の申立てを検討することとなります。具体的な手続きの流れは、債権者への通知、従業員の解雇、申立書類等の準備、裁判所への申立て、破産管財人による財産売却、債権者集会、配当となります。
詐欺破産罪
破産法では、債務者が破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で(1)財産隠匿または破壊、(2)財産の譲渡または債務の負担を仮装、(3)財産の現状を変更して価値を減損、(4)財産を債権者の不利益に処分または債務の負担が禁止されております(265条1項)。違反した場合は詐欺破産罪として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。また債務者に破産手続開始決定がなされたことを知りながら、債権者を害する目的で破産管財人の承諾その他の正当な理由無く債務者の財産を取得した場合も同様とされております(同2項)。なお法人についても両罰規定として同様の罰金が科されることとなっております(277条)。
詐欺破産罪の具体的要件
上記のように破産法265条1項では「破産手続開始の前後を問わず」と規定されております。破産手続き開始決定を受けた後だけでなく、その前も規制の対象となっております。具体的にどれくらい前まで対象となっているかは条文上示されてはおりませんが、すでに返済が困難な状況となっている場合は該当する可能性が高いと考えられます。さらに詐欺破産罪には「債権者を害する意図」が必要とされます。その行為によって債権者が不利益を受けることを認識していることが必要です。その上で財産の隠匿は破損、第三者に廉価で譲渡したり、不利な条件でさらに債務を負ったり、債務を新たに負ったように仮装すると詐欺破産罪が成立することとなります。またこれらの行為に加担した第三者も同様ということです。
コメント
本件でFATEは破産手続開始決定の半年前に同社が所有する高級車等を同社元社長が実質的に運営する別会社に無償譲渡し、破産管財人には虚偽の説明をしていた疑いが持たれております。これらの事実であった場合、返済がすでに困難な状況と債権者への返済額が減少することを認識しつつ財産を隠匿または廉価譲渡したと言え、詐欺破産罪に該当する可能性は高いと考えられます。以上のように債務超過または支払不能が近く、倒産が間近となっている状況で会社の資産を別会社に移すなどの行為は詐欺破産罪となる可能性があります。以前にも紹介した淡島ホテルの土地借地権を契約時期を捏造した虚偽の書類を作成して別会社に移していたという事例でも有罪判決が出ております。経営難で支払不能が濃厚となった場合は弁護士など専門家と相談し、慎重に手続きを進めていくことが重要と言えるでしょう。
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