中部電力が6月に移行へ、監査等設置会社について
2024/01/25 商事法務, 会社法
はじめに
関西電力等とのカルテル事件により課徴金納付命令を受け、現在処分の取消を求め係争中の中部電力が、6月の定時総会を経て監査等委員会設置会社に移行すると発表しました。監督機能を強化するとのことです。今回は監査等委員会設置会社について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、中部電力は関西電力等とのカルテル事件で公取委から計275億円の課徴金納付命令を受けるなどコンプライアンスを巡る問題が相次いでいるとされます。中部電力では地球環境に配慮した安全・安価で安定的なエネルギーの供給と地域社会の持続的な発展への貢献に取り組んでおり、会社を取り巻く環境が大きく変化する中、より機動的な意思決定とガバナンスの両立を図るため、監査等委員会設置会社への移行を決定したとのことです。これにより取締役への大幅かつ柔軟な業務執行権限の移譲が可能となり、監査等委員が取締役会での議決権を有することで監査・監督機能の実効性が強化されるとしております。今年6月の定時株主総会で定款変更の承認決議を得る予定とされます。
監査等委員会設置会社とは
監査等委員会設置会社とは、平成26年会社法改正で新たに導入された株式会社の機関設計です。監査役会の代わりに監査等委員である取締役3人以上で構成される監査等委員会が取締役の業務執行を監査・監督します。日本の株式会社で古くから採用されてきた監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間的な機関設計と言われております。先日にも取り上げましたが、平成15年に制定された監査特例法によって導入された委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)は指名委員会、監査委員会、報酬委員会と3つの委員会の設置が必要でそれぞれ過半数が社外取締役である必要があるなど、兼任可能ではあるものの会社にとって非常に負担の大きい制度となっておりました。そこで経済界からはかねてから、より柔軟な機関設計を可能とする制度の導入が求められていたという経緯があります。これにより柔軟で迅速な業務執行と実効的な監査監督を可能とする監査等委員会設置会社が取り入れられました。
監査等委員会設置会社の機関設計
監査等委員会設置会社は公開・非公開、会社の規模等に関わらず採用することができます(会社法326条2項、38条4項)。設置が必要な機関としては、取締役会、監査等委員会、会計監査人となります。監査等委員会は3人以上の「監査等委員である取締役」で構成され、その過半数は社外取締役である必要があります(331条6項)。この監査等委員である取締役は取締役ではありますが、あくまでも「監査等委員である取締役」という厳密には取締役とは異なる役職となっており、株主総会では取締役とは区別して選任する必要があります。監査役に近い地位であることから解任の際には特別決議が必要となります(344条の2第3項、309条2項7号)。そして取締役会は通常の取締役と監査等委員である取締役で構成され、通常の取締役のみが代表取締役となります。これらの役員の任期は通常の会社とは異なっており、通常の取締役が1年、監査等委員である取締役が2年となっております(332条1項、2項)。監査等委員である取締役を3名、そのうち2名を社外取締役とし、通常の取締役を1名、会計監査人を1名とすると、最低人数での構成はこの5名となります。
業務決定の委任
重要な財産の処分、多額の借財、支配人の選任・解任、支店の設置・廃止、募集社債に関する事項、役員の責任一部免除などについては原則として取締役会で決定する必要があります(362条)。取締役の数が6人以上で、かつ社外取締役が1人以上設置されている会社は重要な財産の処分と多額の借財について特別取締役に決議を移譲することが可能です(373条1項)。また監査等委員会設置会社では、全取締役の過半数が社外取締役である場合、または定款で定めた場合は取締役会決議によって重要な業務執行の決定を取締役に委任することが可能です(399条の13第5項、6項)。なおこの2つの要件を満たす場合、特別取締役による議決の定めはできないとされます(373条1項カッコ書き)。監査等委員会設置会社がこれらの要件を満たす場合は特別取締役よりも広い範囲の決定権限を取締役に与えることができることから、特別取締役を採用する意味がなくなるためと言われております。同じ理由で指名委員会等設置会社も特別取締役を採用することはできません(373条1項)。
コメント
本件で中部電力はかねてよりカルテル事件による行政処分とそれに関連する取消訴訟、株主代表訴訟を抱えておりコンプライアンスやガバナンス関連の問題を抱えておりました。そこで柔軟な業務執行権限の移譲と監査監督機能が強化された監査等委員会設置会社への移行を決定したとされます。具体的な人事については追って発表される予定とのことです。以上のように現在会社法では通常の監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社の3種類の機関設計が用意されております。指名委員会等設置会社はアメリカの制度を参考に導入されており、海外の投資家からの評価・信頼の厚い制度となっております。しかし上でも触れたように兼任可能とは言え3つの委員会を設置する必要があり非常に負担が大きいとされてきました。そこでその中間とされる監査等委員会設置会社を採用する会社が増加しております。柔軟で迅速な意思決定と実効的な監査が期待できます。それぞれのメリット・デメリットを把握しつつ自社に適切な設計を模索することが重要と言えるでしょう。
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