優良誤認表示のメルセデス・ベンツに納付命令、景品表示法の課徴金制度について
2024/03/14 コンプライアンス, 行政対応, 広告法務, 景品表示法, 自動車
景品表示法違反でメルセデス・ベンツに課徴金納付命令
消費者庁は3月12日、「メルセデス・ベンツ」の日本法人に対し、景品表示法違反(優良誤認)に基づく課徴金納付命令を出しました。その総額は、約12億3000万円にのぼります。
これまで、景品表示法違反の課徴金としては、クレベリンの販売元である大幸薬品が昨年4月に命じられた6億円が最高額でしたが、そちらを更新した形です。
景品表示法違反の課徴金として、過去最高額に
今回、課徴金納付命令を出されたのは、ドイツの高級車メーカー「メルセデス・ベンツ」の日本法人メルセデス・ベンツ日本株式会社です。
消費者庁の発表によりますと、同社は、多目的スポーツ車の3車種に搭載される安全運転支援システムなどについて、実際には追加料金が必要な有料オプションだったにも関わらず、カタログ上、「標準装備」などと表記していたとされています。
メルセデス・ベンツ日本株式会社に対する景品表示法に基づく課徴金納付命令について(消費者庁)
また、車両を高級仕様にするオプションパッケージ2商品についても、サスペンションの種類が実際には標準と同じグレードのものであったりと、表示と実際の品質との間に乖離が認められたといいます。
今回、表示が問題視されたのは、
・GLA200d 4MATIC
・GLB200d
・GLB250 4MATIC スポーツ
という小型SUV(スポーツ用多目的車)の3つのモデルと「AMGライン」2商品になります。
景品表示法の課徴金制度は不当表示に伴う売上額の3%を納付させる仕組みになっています。違反が認められた3モデル、2商品では合わせて約412億円の売り上げがあり、うち1商品については不当表示の自己申告(景品表示法第9条に基づく報告)があったため、課徴金額が半額に減額されたものの、最終的に合計12億3,097万円の課徴金納付が命じられる形となりました。
これは、現在の課徴金制度が2016年度に導入されて以降、過去最高額ということです。
景品表示法の不当表示規制
景品表示法第5条1号によると、「商品または役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、不当に顧客を誘引して一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示」は優良誤認表示として禁止されています。
例えば、中古自動車の走行距離が3万kmと表示されていても、実際には10万km走行していたり、国産有名ブランド牛と表示していても実際にはブランド牛ではなかったといった事例が典型例と言えます。
そして第2号では、「商品または役務の価格その他の取引条件について、実際のものまたは当該事業者と同種もしくは類似の商品・役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると誤認させる幼児であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示」が禁止されています。これが有利誤認表示です。
例えば、基本価格を記載せずに「今なら半額!」と表示しつつ、実際には半額になっていない場合などが典型例となります。
違反に対する課徴金等
上述したような不当表示行為に対しては、当該行為の差止や再発防止などを命じる措置命令が出されることがあります(第7条)。そして、優良誤認表示や有利誤認表示に対しては課徴金納付命令の対象となっています(第8条)。
課徴金額は、対象商品・役務の売上額の3%となっており、対象期間は3年間とされます。
一方で、違反事業者が「相当の注意を怠った者でない」と認められる場合には、課徴金は課されないこととなります。また、課徴金額が150万円未満となる場合も免除となります。
なお、課徴金には除斥期間が定められており、違反行為をやめた日から5年を経過したときは課徴金が賦課されないとされています(第12条7項)。また、課徴金が課される際には、違反事業者に対する手続き保障として弁明の機会が付与されることになっています(第13条)。
課徴金の減免制度
課徴金対象行為に該当する事実を報告した事業者については、課徴金額が50%減額されるとされています(第9条)。いわゆるリーニエンシー制度です。
また、事業者が所定の手続きに沿って返金措置を実施した場合も課徴金は減額または免除されます(第10条、11条)。この返金措置とは、一般消費者から申し出があった際に、購入額に3%以上の金銭を上乗せして返金することです。
手続きとしては、「実施予定返金措置計画」を作成して消費者庁長官の認定を受け、この計画に沿って返金措置を実施します。そして、報告期限までに報告します。返金措置における金銭交付相当額が課徴金額以上である場合は課徴金が免除され、課徴金額未満である場合は減額されることとなります。
過去には、クレベリンめぐり6億円納付命令
景品表示法をめぐる課徴金のこれまでの最高額は、新型コロナウイルスやインフルエンザの感染対策商品として注目されていた空間除菌剤「クレベリン」などをめぐる表示に関連して、販売元の大幸薬品株式会社に課された6億744万円でした。
大幸薬品は、クレベリンなどの商品に「空間に浮遊するウイルス・菌を除去」などの文言を商品パッケージなどに表示し販売していました。消費者庁は表示の裏付けとなる根拠資料の提出を求めていましたが、提出された資料を見てもウイルスの除去や除菌をするといった表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかったといいます。
そのため消費者庁は、「あたかも製品から発生する二酸化塩素の作用で室内空間に浮遊するウイルスや菌を除去・除菌する効果があると誤解させる表示をしていた」として、景品表示法第5条1号が禁止する“優良誤認表示”にあたると判断し、販売元の大幸薬品に、課徴金納付命令を発出しました。
空間除菌クレベリン、不当表示で6億円の課徴金納付命令(企業法務ナビ)
コメント
今回のケースを受け、企業法務の専門家からは、「カタログの内容が景品表示法上、適切なものか否か、法務部門が事前に把握し是正するのは難しい」という声もあがっています。
法務側で標準装備とオプション装備の別を把握したり、パーツごとの実際の商品グレードを正確に把握することが容易ではないためです。
その意味では、まずは商品知識に精通した現場担当者に対し、景品表示法(過去の違反事例含む)の周知を行い、現場担当者自らがアンテナを張れる状態を作る必要があります。
また上述のように、景品表示法にはリーニエンシー制度も用意されているため、自社の製品カタログやHP等の表示で違反の疑いがあると認識した場合には、リーニエンシー制度の活用も視野に、迅速に消費者庁や専門家に相談することが重要といえます。
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