三井住友FGが社内スタートアップに付与、ストックオプションについて
2024/03/28 商事法務, 会社法, 金融・証券・保険
はじめに
三井住友ファイナンシャルグループ(FG)は社内発のスタートアップ子会社の役員に対しストックオプションを付与すると発表しました。社員のアイデアによる新会社設立を後押しするとのことです。今回はインセンティブ報酬の1つであるストックオプションとその税制について見ていきます。
事案の概要
三井住友FGの発表によりますと、同グループの子会社である「SMBCWevox株式会社」は経営へのコミットメント強化を目的に役員を対象としてストックオプションを発行するとされます。同グループでは「社長製造業」銘打ち、従来の銀行の枠組みにとらわれずに新たなチャレンジをする従業員を支援してきており、その一環としてグループ発のスタートアップ子会社である同社でストックオプションを付与し、上場へのインセンティブを与えることが狙いです。これらの取り組みを更に加速させ、デジタルビジネスの創出増加、従業員のキャリアの多様化や新たなチャレンジの後押しを進めるとのことです。
ストックオプションとは
ストックオプションとは、会社が従業員や役員等に対して、あらかじめ定めた価格で自社株を取得できる権利を付与する制度を言います。新株予約権の一種と言えますが、新株予約権は付与の対象が限定されておりませんが、ストックオプションは一種のインセンティブ報酬であることから従業員は役員等に限定されます。ストックオプションを付与された者は自社の株価が上がった時点で行使し、あらかじめ定められた価格で取得しその差額分の利益が享受できるということです。ストックオプションのメリットとしては、優秀な人材の確保、従業員等のモチベーションの上昇、安定的な社外協力者の確保などが挙げられます。一方で株価が下落した場合には逆に従業員等のモチベーションの低下を招き、既存の株式の希薄化や付与基準が不明確な場合には従業員等の不満を招くリスクがあることなどが指摘されております。
ストックオプション税制とは
通常のストックオプションの場合、権利行使をして株式を取得した時点で課税され、その株式を売却した時点でまた課税されることとなります。つまり株式を取得した時点で、いまだ現金としての利益を得ていないにもかかわらず給与所得税が発生してしまうということです。しかし一定の要件のもと、取得時には課税されずに繰り延べられ、株式売却時に売却価格と権利行使価格との差額に譲渡益課税がなされる制度があります。それがストックオプション税制です。その要件は、①付与の対象が会社または子会社の役員や使用人と一定の要件を満たす弁護士等の外部協力者、②発行価格が無償、③権利行使期間が2~10年、④権利行使限度額が年間合計で1200万円を超えないこと、⑤権利行使価額が契約締結時の時価以上、⑥権利の他者への譲渡禁止、⑦行使後は証券会社等に保管・管理委託が必要、となっております。これらの要件を満たす場合、税制適格ストックオプションとして優遇税制を受けることができます。
令和6年税制改正
令和6年度税制改正大綱によってストックオプション税制が拡充されます。まず年間の権利行使限度が1200万円から引き上げられ、設立から5年未満の会社については2400万円、設立から5年以上20年未満の会社は3600万円までとなります。そして行使後は証券会社等に保管委託することが求められておりますが、この保管委託要件も緩和され、権利行使により付与される株式が譲渡制限株式である場合は保管委託せずに自社管理も可能となります。そして付与の対象者の範囲も拡充されます。これまでは弁護士や専門エンジニアなどに限られていた外部協力者の範囲が拡張され、教授・准教授、非上場会社の役員・重要な使用人で1年以上の実務経験がある者、日本国の国家資格を有する者、博士の学位を有する者なども対象となります。
コメント
本件で三井住友FGは社内発のスタートアップ子会社でストックオプションを付与し、新たなビジネスアイデアによるチャレンジを後押しするとしております。従業員でもグループ内でアイデアが認められた場合、新会社の役員等に積極的に抜擢し、ストックオプションでインセンティブを与える狙いです。以上のように自社株をあらかじめ定めた価格で購入する権利を付与しておけば、会社が成長し株価が上昇した際に行使して利益を得られるという報酬を与えることができます。また一定の要件のもとでは優遇税制を受けることができ、今年の税制改正ではその拡充も図られております。税制適格ストックオプションを利用しない通常の場合だと取得時に給与所得として55%、売却時には譲渡所得として20%もの課税がなされますが、優遇税制が適用されると売却時に20%のみとなります。ストックオプションの発行を検討している場合にはこれら税制面でも注意を払うことが重要と言えるでしょう。
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