金融庁が定時総会前に開示を検討、有価証券報告書について
2024/05/15 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
金融庁は上場企業などに提出が義務付けられている有価証券報告書について、定時株主総会前の開示を促していくことを検討していることがわかりました。海外投資家の要望にこたえ、海外マネーの呼び込みを狙っているとのことです。今回は金商法の有価証券報告書について見直していきます。
事案の概要
朝日新聞の報道によりますと、今年4月、首相官邸で開かれた意見交換回で、海外の機関投資家でつくる「国際コーポレートガバナンス・ネットワーク」の幹部らが定時株主総会前の有価証券報告書(有報)の開示を要請したとされます。欧米では有報にあたる年次報告書を株主総会の1ヶ月以上前に開示する企業が一般的とされ、岸田首相は「企業と投資家の一層の対話促進に向けて、金融庁を中心に環境整備を進める」と表明したとのことです。なお日本ではほとんどの上場企業が定時株主総会と同日か翌日に提出しており、昨年の総会前に提出した企業は33社のみであったとされております。
有価証券報告書とは
有価証券報告書とは、上場会社等に提出が義務付けられている書類で、会社の概況や事業・設備の状況、財務状況など様々な情報が盛り込まれております。「有報」と省略されて呼ばれることも多く、提出された有価証券報告書は一般にも開示され、EDINET(金商法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)で閲覧することが可能です。この有報は投資家に対し、会社の状況に関する情報を提供して投資判断の材料を与え、投資家を保護することが目的とされます。そのため株式市場に上場している企業や一定の要件を満たす有価証券発行会社に定期的に提出が義務付けられております(金商法24条)。以下提出義務や記載事項などを具体的に見ていきます。
有価証券報告書提出義務者
財務省関東財務局のHPによりますと、原則として以下の有価証券発行者は事業年度ごとに有価証券報告書の提出が義務付けられております。(1)金融商品取引所に上場されている有価証券、(2)店頭登録されている有価証券、(3)募集または売り出しにあたり有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券、(4)所有者数が1000人以上の株券または優先出資証券および所有者数が500人以上のみなし有価証券となります。なお50人以上に勧誘し、1億円以上の募集・売り出しを行った場合は有価証券届出書、1000万円超1億円未満の募集・売り出しの場合は有価証券通知書の提出義務が課されます。このように上場企業など大規模な募集を行った有価証券発行者に有報の提出が義務付けられており、非上場企業の場合でも一定規模の売り出しを行った場合にこれらの提出が必要となってきます。そしてこれらの書類提出義務のある企業は事業年度終了後3ヶ月以内に内閣総理大臣に提出することとなります。
有価証券報告書の記載事項
有価証券報告書には、企業の概況、事業の状況、設備の状況、経理の状況、株式事務の概要などを記載することとなります。企業の概況では事業の内容、主要な経営指標等の推移、従業員の状況、関係会社の状況などを記載するとされます。売上高、経常利益、当期純利益や純資産額、関係会社の名称や資本金、事業内容、従業員数や平均年齢などです。事業の状況では主に経営方針、経営環境や課題、事業リスク、研究活動の内容、重要な契約等を記載します。設備状況には主に設備投資等の概要や主要な設備を記載します。経理の状況には連結貸借対照表、連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書などが含まれます。これら以外にも株式等の状況や自己株式の取得状況、配当政策、株価の推移、役員の状況、コーポレートガバナンスの状況なども盛り込むこととなります。
コメント
有価証券報告書は上でも触れたように事業年度終了後3ヶ月以内に提出する必要があります。たとえば3月決算の会社の場合は6月末が提出期限となります。通常このような会社は定時株主総会も6月に開催され、有報もそれに合わせて提出・開示されることが一般的です。昨年は3月決算の上場企業2325社のうち8割以上が定時総会の当日か翌日に提出していたとされ、総会前に提出していたのはわずか33社であったとのことです。近年海外の機関投資家やファンドによる日本企業の株式保有が増加しており、それに伴っていわゆる物言う株主による株主提案など、株主による積極的な会社運営への関与が目立っております。今回の海外投資家からの有報の事前開示要請を受け政府は積極的に環境整備に乗り出す方針のようです。有報の提出義務がある企業はどの程度前倒しに作成・提出が可能かを今の段階から検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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