労基署が市民病院に残業代不払いで是正勧告、割増賃金について
2024/08/15 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
医師や看護師らの残業代を適正に支給していなかったとして、宮城県大崎市の「大崎市民病院」が労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。未払額は10億円を超えるとのことです。今回は労働基準法の割増賃金について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、大崎市民病院は2023年2月、時間外勤務手当について、労働基準法で定められた一部手当を算入せずに計算しているとして労基署から是正勧告を受けたとされます。またその際、医師や看護師の時間外勤務時間の過少申告も判明し、2020年3月までにさかのぼった未払分と時間外勤務時間の不足分をあわせて支払うよう求められたとのことです。対象となる医師や看護師は約1100人となり、未払分は計約10億5000万円に登るとされ、同病院はそのうち計約2億3000万円を支払う一方、残額については経営状況が厳しいとして払わない方針とのことです。
労働時間と賃金
労働基準法32条では、労働時間は原則として1日8時間、週40時間となっております。これを超えて残業をさせるためには労組または労働者の過半数を代表する者と協定を締結し労基署に届け出る必要があります(36条)。この1日8時間、週40時間の労働時間を「法定労働時間」と言います。これに対し就業規則等で定める労働時間を「所定労働時間」と呼びます。労働者の賃金はこの労働時間に従って支払われることとなりますが、一定の場合には割増賃金が発生します。たとえば法定労働時間を超えて残業をした場合にはその時間分については割増賃金を支払う必要が出てくるということです。なお所定労働時間を超えていても、法定労働時間を超えていなければその残業分には割増賃金は不要です。以下労働基準法の割増賃金について具体的に見ていきます。
労働基準法の割増賃金
労働基準法37条によりますと、割増賃金が発生するのは、(1)法定労働時間を超える労働、(2)法定休日の労働、(3)深夜労働となります。上でも触れたように法定労働時間を超えた分には割増率25%以上の割増賃金が必要です。またその月の時間外労働が60時間を超えた場合は、それ以降は割増率が50%以上となります。法定休日に労働をした場合も割増賃金が必要で、その場合の割増率は35%以上となっております。なお休日には時間外労働の割増は適用されません。そして深夜労働にも割増賃金は発生します。深夜とは22時~翌5時までを指し、割増率は25%以上です。残業が深夜に食い込んだ場合は合わせて割増率が50%以上となります。この規定に違反した場合は罰則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっております(119条)。
時間外労働の上限規制
ここで時間外労働の上限規制についても軽く触れておきます。上記のようにいわゆる36協定を締結することによって1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させることも可能となりますが、それにも上限があります。以前は法律上の上限はなく、大臣告示による上限だけがあり行政指導の対象となるのみでしたが、2019年4月の改正法施行から年720時間、複数月平均80時間、月100時間が法定上限となりました。月80時間というのは1日あたり4時間程度の残業に相当します。これは臨時的な特別の事情があって労使で合意する場合でもこの上限は超えることができません。これに違反した場合も6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金の罰則が適用となります。
コメント
本件で大崎市民病院は医師や看護師の時間外労働について、時間外手当を算入せずに賃金を計算していたとされます。また時間外労働時間も過少申告がなされていたとされます。時間外の割増や深夜の割増などを計算していなかったのではないかと考えられます。以上のように労働基準法では法定労働時間を超える労働には割増賃金が発生します。また月の時間外労働が60時間を超えると割増率も50%となり、そこに深夜割増が加算されると75%となります。会社にとっては相当な負担となりますが、違反した場合には罰則の適用もありえます。残業が深夜に及ぶ場合は正確に割増賃金を算入できているか、勤怠管理を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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