スギ薬局が誤調剤した薬を服用後に74歳女性死亡、遺族が薬局側を提訴
2024/09/03 コンプライアンス, 訴訟対応, 医療・医薬品
はじめに
2022年5月、スギホールディングス株式会社の子会社が運営するドラッグストア「スギ薬局」で調剤された薬を服用した女性が死亡する事故が起こりました。この事故に関し、遺族は、女性の死亡は薬剤師の調剤ミスが原因だとして、8月28日、会社や薬剤師らを相手取り計約3850万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。
調剤過誤された女性が死亡
報道などによりますと、亡くなった女性(当時74歳)は2021年10月18日に訪問診療で持病の薬を処方され、その処方箋を都内のスギ薬局店舗にFAXで送付。薬剤師がその処方箋をもとに薬を1回分ずつ小分けにする分包作業を機械で行い、従業員が女性の家に薬を届けたということです。
女性は受け取った薬をしばらく服用していましたが、11月15日に意識を失い、入院することになりました。病院の薬剤師が、搬送時に家から持ち出された薬包を鑑別したところ、女性の『おくすり手帳』に記載のない(持病ではない)糖尿病の薬が2種類混入していたことが明らかになりました。
病院からの連絡を受けてスギ薬局が調査を実施。その結果、薬を小分けにする機械に直前に作業を行なった別患者の糖尿病の薬が残っており、女性の薬包に誤って混入した可能性があることなどが判明しました。混入した糖尿病の薬は、重篤な低血糖を引き起こすおそれがあり、高齢者には禁忌(避けるべき)とされている薬だったということです。
女性は低血糖脳症と診断され、意識が戻らないまま2022年5月に心不全で息を引き取ったといいます。
遺族側は、薬剤師が薬を小分けにする機械に別の患者の薬が残っていることを見落とした過失や、薬を個別に包装した後の薬剤鑑査体制(本来、薬剤師二人で薬の種類・数をチェックする)に欠陥があったと指摘しました。
提訴後に遺族の長男が記者会見を行い、「二度と同じことが起きないよう対策を講じてほしい」と述べています。
一方、スギホールディングスは「調剤過誤を発生させることのないよう店舗管理を徹底する」とコメントし、謝罪しました。
調剤過誤事案に関する民事訴訟の提起につきまして(スギホールディングス株式会社)
過去にも調剤ミスで患者が死亡し、損害賠償が認められたケースも
調剤過誤が起こる主な原因としては、機械点検の怠りや、薬名が類似する薬の取り違えなどが挙げられるといいます。
これまでにも、誤った処方が原因で患者が死亡し、遺族側の損害賠償請求が認められた事案があります。代表的なものが、札幌地裁 平成23年7月21日判決です。
当時96歳の患者女性は医師から頻尿の治療薬「バップフォー」の錠剤90日分の処方を受け、薬局に処方箋を提出しました。しかし、薬剤師は誤って血圧降下剤「バソメット」の錠剤を調剤し、渡してしまいます。
女性は服用から41日を過ぎた時に脳梗塞となり入院。1カ月後に息を引き取りました。
遺族は薬局開設者と薬剤師を相手取り、損害賠償を求める訴訟を提起。女性が96歳と高齢だったため、訴訟では調剤過誤と女性の死亡との因果関係が争われましたが、裁判所は「不必要な薬を服用させられ、典型的な副作用である脳梗塞で死亡したと認めるのが相当」とし、2500万円の損害賠償を命じました。
コメント
調剤過誤などが発生した場合、民事責任だけでなく、刑事責任を問われる可能性があります。状況によっては、業務上過失致死傷罪(刑法211条)が成立する場合もあります。
今回の遺族側も、女性の死亡後に刑事告訴を行っているといいます。
訴訟提起後、いち早く謝罪の意を示したスギ薬局側ですが、報道によりますと、薬剤鑑査の実施有無、事故と死亡との因果関係の有無に関し、遺族側の主張と相違があるとされています。
同様の事故の発生を予防するうえでも、裁判を通じての真相解明が求められます。
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