ノジマが「VAIO」を子会社化へ、企業結合規制について
2024/11/12 商事法務, 総会対応, 戦略法務, 会社法
はじめに
家電量販店大手「ノジマ」はPCメーカー「VAIO」の株式を取得し、子会社化すると発表しました。公取委による承認後に効力発生となる予定とのことです。今回は独禁法の企業結合規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、家電量販店大手ノジマはPCメーカー「VAIO」の発行済株式の約93%を日本作業パートナーズとそのファンドから取得し、子会社化する予定とされます。PCメーカー「VAIO」は2014年にソニーのPC部門から分離独立する形で発足し、ノートPC「VAIO」シリーズを国内外で展開しております。ノジマはVAIO社が持つブランド力や企画からアフターサービスまで一貫した体制を評価しており、両社の顧客基盤を活かして事業機会の創出や拡大、VAIOの財務戦略の強化・推進を図るとのことです。今回の子会社化の費用は約112億円とされ、公取委の承認後2025年1月6日に効力発生となる見通しです。
独禁法の企業結合規制とは
企業同士が合併をしたり、事業の譲り受け、または株式保有などによって組織再編やM&Aがなされるにあたって、独禁法上、一定の規制を受ける場合があります。それが企業結合規制です。例えば何らか製品市場におけるシェア1位の企業と2位の企業が合併すると、その市場に与える影響は相当なものと予想できます。これを無制限に放置していた場合、市場での公正な競争に大きな問題が生じることとなります。そこで一定の場合に独禁法では企業結合を制限しております。また一定規模以上の会社が合併や事業譲り受け、株式保有等を行う場合はまず公取委への届け出を行う必要があるとされております。以下具体的に見ていきます。
企業結合規制の要件
企業結合規制では、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」こととなる企業結合を禁止しております(10条~17条)。対象となる行為は合併、分割、事業譲り受け、株式保有、役員兼任などがあります。「一定の取引分野」とは「市場」を意味し、具体的な事例ごとにどの範囲の競争に影響を及ぼすかという観点から画定されることとなります。当事会社が扱う製品の範囲、それが取引される地理的範囲、取引段階などが判断されることとなります。「競争を実質的に制限する」とは、企業結合によって市場の構造が変化し、または企業同士で協調的な行動をとることによってある程度自由に価格や品質、数量などを左右することができる状態をもたらすことを言うとされております。その判断にあたっては、市場シェア、当事会社のこれまでの競争の状況、競争者とのシェアの格差、競争者の供給余力、参入の容易性、輸入圧力などの実態を総合的に考慮するとされます。
届出義務とガイドライン
独禁法では、一定規模の会社が合併等を行う場合には公取委への届出義務が課されております(10条、15条、15条の2等)。具体的には国内売上高200億円を超える会社が50億円を超える会社と結合する場合に届出義務が発生します。この届出をした日から30日が経過するまで結合を進めることができません。株式保有の場合は持株比率が20%または50%を超える場合に届出が必要です。なお公取委の企業結合ガイドラインでは、独禁法上問題ない場合(セーフハーバー)の基準としてハーフィンダール指数(HHI)が示されております。HHIは両当事会社の市場でのシェアの2乗の合計値となります。たとえばシェア30%と20%の会社の結合の場合は1300となります。このHHIが(1)1500以下の場合、(2)1500~2500の場合で増分が250以下の場合、(3)2500超えで増分が150以下の場合は問題ないとされております。
コメント
家電量販店大手ノジマはかつてソニーのPC部門であった「VAIO」を日本産業パートナーズから株式を譲り受ける形で子会社化するとされております。国内PC販売でのシェアの詳細は不明ですが、ノジマの国内売上高は今年3月期の決算短信では7600億円を超えており、企業結合の際には事前の届出が必要となるものと考えられます。なお届出義務があるにもかかわらず、提出しなかった場合は罰則として200万円以下の罰金が規定されております。以上のように独禁法ではカルテルや談合といった行為だけでなく、シェアの大きい会社同士の合併といったM&Aにも規制を置いております。特に売上高が200億円を超える会社の場合は事前の届出を求めております。M&Aを検討する際には、会社法や税法対策だけでなく、独禁法上の手続きについても留意して進めていくことが重要と言えるでしょう。
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