顧客データの他社移行拒否で三菱商事子会社に排除措置命令
2025/01/08 コンプライアンス, 行政対応, 情報セキュリティ, 独禁法対応, 独占禁止法, IT
はじめに
建設作業員らの個人情報を管理するクラウドサービスの利用企業が他社に乗り換えるのを妨害したとして、公正取引委員会は2024年12月24日、独占禁止法違反(不公正な取引方法)で三菱商事の子会社、株式会社MCデータプラスに排除措置命令を出しました。
公正取引委員会がクラウド事業をめぐって排除措置命令を出すのは初めてとされています。
建設業界クラウド最大手に排除措置命令
今回のMCデータプラスへの排除措置命令は、同社が独占禁止法第19条(不公正な取引方法第14項:競争者に対する取引妨害)の規定に違反していると判断されたことに端を発します。
MCデータプラスは「建設サイト・シリーズ」という建設業向けクラウドサービスを運営。その一環で安全書類作成サービス「グリーンサイト」などが展開されています。これは建設工事の現場で元請会社と下請会社の間での労務安全書類のやり取りをインターネット上で実施できるようにしたもので、業務効率化・DX化に貢献しています。
MCデータプラスは2019年4月以降、こうした建設事務分野でのクラウドサービスで最大手となっており、2023年には契約企業数が10万社を突破したと発表していました。
一般的に、労務安全に関するクラウドサービスを利用するためには、利用企業は作業員情報や現場についての情報を入力する必要があります。その際、入力項目が100以上にのぼることがあるといいます。
一方で、利用中のクラウドサービスから他社のクラウドサービスに乗り換えを行う際、入力済の登録情報を新サービスにデータ移行できれば、改めて作業員情報などを再度入力し登録する必要がなくなるため、他社サービスへの乗り換えのハードルが低くなります。
こうした中、MCデータプラスは遅くとも2020年以降、他社サービスに乗り換える企業に対し、個人情報保護などを理由に登録情報のデータ移行を拒否していたということです。そのため、特に多くの作業員を抱える企業において、作業員情報等の再度の登録が大きな負担となっていました。
公正取引委員会は、MCデータプラス側が“個人情報保護”を盾にデータ移行を拒否していることに対し、「合理的な理由なく、利用企業自らが登録した作業員情報の提供を拒んでいる」と判断。MCデータプラスに対し、違反行為の取りやめと再発防止を求める排除措置命令を出しました。
MCデータプラス側は取消訴訟を提訴
MCデータプラスは、2024年12月24日にホームページ上で、排除措置命令を受けた旨を発表。2023年10月に公正取引委員会から告知書を受領して以降、調査に全面的に協力してきたものの、公正取引委員会との間で、事実認定と法令の解釈に関して見解が相違していると主張しています。
そのため、MCデータプラスは、措置命令を受けた12月24日に、東京地方裁判所に対し、排除措置命令の取消訴訟の提起と、執行停止の申立てを行っています。
公正取引委員会からの排除措置命令及び 同排除措置命令に対する取消訴訟の提起及び執行停止の申立てについて(MCデータプラス)
コメント
データ社会の昨今、海外で注目されているのが「データポータビリティ権」です。これは特定のサービスなどに提供してきた個人データを他社が提供する別のサービスへ移動できる権利のことです。欧州の「EU一般データ保護規則(GDPR)」の第20条で規定され、他社への乗り換えの壁をなくす個人の権利として認められています。
日本ではまだ法制化されていませんが、公正取引委員会もこの権利に注目しています。公正取引委員会の研究機関「競争政策研究センター」が2021年にまとめた報告書では「データポータビリティの確保が重要」と指摘し、具体策として他社サービスへの乗り換えや複数のサービスの並行利用ができる環境整備を挙げています。
今後、「データポータビリティ権」に関し、どのような法整備が為されるのか、MCデータプラスの訴訟の趨勢と合わせて注目されます。
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