誤って毒薬を調剤。75歳女性を死亡させた薬剤師2人を書類送検。
2011/08/22 薬事法務, 薬機法, その他
誤って毒薬を調剤。75歳女性を死亡させた薬剤師2人を書類送検。
埼玉県警は8月19日、調剤のミスにより75歳の女性患者を死亡させるなどしたとして、「小嶋薬局本店 サンセーヌ薬局」の吉田玲子・管理薬剤師と同薬局の経営者である小嶋富雄・埼玉県薬剤師会長を、それぞれ、業務上過失致死容疑と業務上過失傷害容疑でさいたま地検に書類送検した。
事件の経緯
1.小嶋県薬剤師会長による調剤ミス
小嶋会長は昨年3月25日、被害女性患者が医師から「胃酸中和剤」を処方されていたにも関わらず、調剤用機器の設定ミスで「コリンエステラーゼ阻害薬」を誤って調剤し、全治不詳の中毒を起こさせた疑いをかけられている。
【薬名解説】
・「胃酸中和剤」=胃の負担を和らげる薬。
・「コリンエステラーゼ阻害薬」=重篤な筋無力症の治療に使われる薬。高齢者に重篤な副作用があり、毒薬指定されている。
2.吉田管理薬剤師による調剤ミス放置
吉田薬剤師は、医薬品の在庫管理を行った同年4月1日時点で小嶋会長による調剤ミスに気付いたが、これを被害女性に連絡せずに放置し、コリンエステラーゼ阻害薬による中毒で4月7日に死亡させた疑いをかけられている。埼玉県警は、調剤ミスに気づいた時点で連絡をしていれば、死ななかったとみている。
各容疑者の供述
1.小嶋会長の供述
「患者を待たせるのが嫌で、調剤した薬の中身を確認しなかった。」
2.吉田薬剤師の供述
「小嶋会長に叱責されるのが嫌で、調剤ミスに気付いたものの、報告も回収もしなかった。」
雑感
1.薬事法違反の疑い
またもや、いたましい事件が起きてしまった。今回問題となった薬局は、昨年2月下旬から4月1日までの期間、患者約20人に対し、約2700錠ものコリンエステラーゼ阻害薬を誤って調剤したという。
薬事法48条は、コリンエステラーゼ阻害薬のような「毒薬」は、他の薬と区別して、貯蔵・陳列し、なおかつ、必ず鍵を施すよう義務付けているのだが、このような運用がなされていたのか、甚だ疑わしい。
2.キーパーソン
コンプライアンス問題においては、必ずキーパーソンが存在する。今回の問題に関しては、より重罪である業務上過失致死罪に問われた吉田薬剤師よりも、小嶋会長こそがキーパーソンであったといえる。
「調剤の正確性>調剤のスピード」という認識を小嶋会長が強く持っていたら、調剤用機器に任せきりで、調剤した薬の中身を確認しないという運用もなかったことだろう。毒薬も、より慎重な取り扱いがされていたはずである。
また、「調剤ミスを指摘する行為は、患者さんの命と薬局を守る素晴らしい行為である」という認識を小嶋会長が持ち、調剤ミスの指摘をどんどん行うよう奨励していたら、吉田薬剤師は何の躊躇もなく、被害女性に連絡が出来たことだろう。
3.総括
薬局経営を行う上で、「患者を待たせない薬局」というイメージを守ることは大切なことなのだろう。薬局の評判を気にして、調剤ミスの事実を公に認められないという心理もわからないではない。
しかし、先週からの繰り返しとなるが、長い目で見たときに、経営を言い訳に患者さんの健康を粗末に扱う薬局の評価が上がるわけがない。小嶋会長のような薬局経営を行っている者が他にいるのならば、そのような薬局経営がひどく分の悪いギャンブルであることを早く認識してもらいたい。
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