電子消費者契約の基本
2017/09/13 契約法務, 消費者契約法
1.電子消費者契約について
情報化社会の発展に伴い、PCやスマートフォンからインターネットを利用して売買等の契約を行うことが一般的な世の中となってきております。しかしながら、このような電子消費者契約においては、対面で行う契約とは異なることから「契約の成立時期」「読み取り可能な状態」「確認を求める措置」に注意が必要となります。以下ではそれぞれの注意点について説明したいと思います。
2.電子消費者契約の成立時期(電子承諾通知の到達)
(1)現行民法では、契約の成立時期について直接対面の方法で行わない契約は承諾の通知を発した時に成立するとして「発信主義」を採用しています(民法526条)。
しかしながら、電子消費者契約では承諾通知が到達したときに成立します(≪参考≫電子契約法第4条)。
(2)電子消費者契約ではPCやスマートフォンといった機械を利用してインターネットによって送信する方法により行うという特殊性があるため、相手方が通知に係る情報を記録した電磁的記録 にアクセス可能となった時点をもって到達したものと解されます。
以1の2つの例を挙げて説明したいと思います。但し、今回用いる説明はあくまでも例であるため、判例等具体的判断が生じた場合には、そちらの判断を基準とするべきです(≪参考≫「PDFファイル」 経済産業省 平成29年6月5日「電子商取引及び情報材取引等に関する準則」14頁「到達」の意義)。
(例1)申込者のメールサーバーが故障していたことにより承諾通知が記録されなかった場合
この場合では、承諾通知に申込者がアクセスし得ない以上、通知は到達しなかったものと解するほかないと考えられます。そのため、電子消費者契約が成立したと考えることは難しいといえます。
(例2)承諾通知が一旦記録された後に何らかの事情で消失した場合
この場合では、電子媒体に記録された時点で 、申込承諾者が承諾通知にアクセスすることできる状態にあると解されるため、通知は到達しているものと解される可能性が高いです。
3.契約書面が文字化けしてしまったら~「読み取り可能な状態」について~
電子消費者契約では、承諾通知の内容が相手方に対して「読み取りが可能な状態」である必要があります。そのため、以下の2つのような場合には「読み取り可能な状態ではない」と判断され、契約が成立したと考えるのは困難になるかもしれません。
①送信された承諾通知が文字化けにより解読できなかった場合
②申込者が有していないアプリケーションソフト (例えば、ワープロソフトの最新バージョン等)によって作成されたファイルによって通知がなされたために復号して見読することができない場合
いずれの場合においても、申込者は契約書面の内容が判読できるように一定の努力をするべきではあります。しかしながら、文字化けによる解読不能により生じる責任を申込者に負担させることは相当とはいえません。又、申込者にその情報を判読する為のアプリケーションを入手しなければならない責任を課すことは相当ではなく、原則として、承諾者が申込者に対して判読可能な情報を送信する責任を負うものと考えられます。したがって、申込者が承諾通知を判読することが不可能な場合には、原則と して承諾通知は不到達と解される可能性が高いです。
4.電子契約法第3条の「確認を求める措置」
電子書面契約は、その手軽さが大きな魅力だといえます。しかしながら、手軽さ故に、操作ミス等によって誤って承諾ボタンを押してしまうなどのトラブルが生じてしまいます。現在では、このようなトラブルを未然に防ぐため、電子契約法では、事業者に対して「確認を求める措置」を講ずることを要求しています(≪参考≫電子契約法第3条ただし書)。
この「確認を求める措置」としては、申込みを行う意思の有無及び入力した内容をもって申込みをする意思の有無について、消費者に実質的に確認を求めていると判断し得る措置が必要です。
(1)「確認を求める措置」として適切と判断される可能性が高い一例
① 確定的な申込みとなる送信ボタンが存在する同じ画面上に意思表示の内容を明示し、 当該ボタンをクリックすることで申込みの意思表示となることを消費者が明らかに確認することができる画面を設定する
② 確定的な申込みとなる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示し、そこで訂正する機会を与える画面を設定する
(≪参考≫「PDFファイル」経済産業省 平成29年6月5日「電子商品取引及び情報材取引等に関する準則」17頁「確認措置と認められると思われる例」)
(2)「確認を求める措置」として適切ではないと判断される可能性が高い一例
①入力画面と同一画面の別の箇所に意思表示の内容を明示する画面が設 けられ表示されているものの送信ボタンが入力画面側に設けられている場合
②意思表示の内容が、同一画面上であっても、確定的な申込みとなる送信ボタンと全く別の場所に表示されている場合
(≪参考≫「PDFファイル」経済産業省 平成29年6月5日「電子商品取引及び情報取引等に関する準則」18頁「確認措置と認められない可能性がある例」)
これらは、消費者が意思表示の内容を確認せずに送信ボタンをクリックするおそれがあります。そのため、「最終確認画面」を設けなければ「確認を求める措置」として不十分とされる可能性があると考えられます。
5.まとめ
電子契約は便利である反面、上記の点で通常の対面契約とは異なった注意が必要となります。上記の注意点を改善することは特段難しいことではありません。電子契約書面をご利用の際には契約を有効に成立させるためにもこれを機会に見直してみてはいかがでしょうか。
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