法務部の業務と英文翻訳
2018/03/08 海外法務, 外国法
はじめに
企業のグローバル化が囁かれた昨今、海外進出を目指す企業も増えています。日本市場だけでなく、海外市場に目を向けることで市場規模が数倍になり、得られる利益も数倍となります。海外との取引をするにあたっては、外国語の契約書やメールを扱うことが必要となります。もっとも、外国語での契約書審査やメールの翻訳には時間がかかり、本来対応すべき業務に時間をかけられないといった問題もあるでしょう。そのため、翻訳会社を利用する企業が増えています。そこで、今回は法務部として、増加する英文翻訳業務にどのように対応していくかという点を見ていきます。
翻訳の種類
翻訳業務が増加すれば、外注で対応する必要が生じるでしょう。そのような必要が生じた際には、以下のような2種類の方法が考えられます。
1.翻訳者
(1)オンライン翻訳サービス
企業が翻訳(外国語⇔日本語)業務の必要が生じた際には、オンライン翻訳サービスを利用することが考えられます。多数の翻訳者が依頼した仕事をチェックして対応できるかどうかをすぐに連絡してくれるという仕組みになっているため、依頼から納品までの流れが早いのが特徴です。また、翻訳会社に依頼するよりもコストの削減になります。英訳1字あたり8~5円くらいが多いですが、2.6円というサービスもあります。もっとも、翻訳はマッチングした翻訳者が単体で行なうため、翻訳の品質にはバラつきが生じてしまいます。専門的な知識が無ければ表現できない文章など、とりわけ外部に提示することになる文書であれば訳文の校正を丁寧に行なう必要があるでしょう。
(2)翻訳会社
そのため、より専門的な分野を扱う場合や正確な翻訳が必要となる場合には、翻訳会社を利用することが良いでしょう。コーディネーターのサービスがあるため、全ての翻訳を一人で対応するのではなく、翻訳の内容に最適な人材を選出して翻訳が行われます。また、必要に応じて多数の言語に翻訳することも可能です。もっとも、コーディネーターサービスがあることから、その分コスト面での負担は生じます。和英英和とも1字10~20円くらいで推移していますが、扱う分野(ビジネス文書、論文、医療、法務など)によっても違いがあります。また、翻訳者・翻訳会社の選定や、見積り・発注、翻訳内容のチェック、差し戻し修正など何度も社外とのやり取りが発生し、翻訳結果ができるまでに数日かかる場合もあります。翻訳した法務関連文書の内容について相手方と修正の交渉する際には、その都度英文対応の社員か翻訳業者で翻訳する必要があるため、最終的な合意まで数週間要することもあるでしょう。
2.機械翻訳
(1)ルールベース翻訳
ルールベース翻訳とは、「この単語はこう訳す」というルールを機械に登録し、そのルールに沿って翻訳していく仕組みをいいます。1970年代後半に主流とされた方法であり、現在の翻訳システムの基盤となりました。This is a penを訳す場合には、「Thisは~、isは~、aは~、penは~」と単語を登録し、また文法についても登録することで翻訳を実現します。もっとも、ルールの登録には限界がありますし、ルールに当てはまらない場合の翻訳に問題が生じてしまいます。
(2)統計翻訳
統計翻訳とは、大量の対訳データを解析し、その統計結果から適した訳し方を割り出す仕組みをいいます。1990年頃に登場した仕組みであり、This is a penを訳す場合には、「I am Kenta (私はケンタです)、I bought the book (私はノートを買いました)、That is an apple (あれはりんごです)・・・This is a pen (これはペンです)」と、対訳データの中から適切な翻訳を選択することによって訳します。この場合でも大量の対訳データが必要となります。対訳データが多くなればなるほど、精度が高くなりますが、計算に時間がかかってしまいます。もっとも、Webの登場によって大量の対訳データが流通し、コンピュータの精度が上がり高速処理が可能になりました。Google翻訳でも利用されている方法です。
(3)ディープニューラルネット(深層学習)
ディープニューラルネットとは、多層のニューラルネットワーク(人間の脳を模倣したアルゴリズムの一式)による機械学習手法のことをいいます。いわゆるAIを用いた翻訳はこの手法を用いています。単語の意味だけでなく接頭辞や語幹、単語の位置なども考慮し、自然な文の流れを機械が分析、学習して翻訳できるようになりました。多層構造により計算が膨大になりますが、より正確な翻訳が可能になりました。近年のGoogle翻訳の精度の急上昇は、このような仕組みを導入した結果といえます。
3.自動翻訳システムと翻訳会社の比較
(1)精度
翻訳会社を利用する場合には、専門的知識を有する担当者により複数人でチェックがなされることもあり、高い精度での翻訳がなされることが期待できます。もっとも、翻訳の精度は翻訳会社が採用している翻訳担当者により異なるため、自社が求めている分野に強みを持っている翻訳会社を選定する必要があるでしょう。自動翻訳システムを利用する場合には、チェックの必要の無いくらい完全な翻訳までは至っていません。しかし、翻訳技術の向上とともに精度が大幅に上昇し、数種類の分野(法務、医学、化学分野等)では「ほぼ人間に匹敵する」翻訳精度を達成しています。英語に限らず、中国語やスペイン語、ポルトガル語など多数の言語にも対応できます。
(2)コスト
翻訳会社を利用する場合には、契約書などの法務関連文書を精度重視で精密に翻訳する場合には、和英英和ともコストを抑えても1字15円くらいかかってしまうことでしょう。A4(約4000字)の業務委託契約書を翻訳する場合には、約60,000円程かかってしまします。これに対して、自動翻訳システムによる場合には、ユーザー1人あたり3,000円/月程のコストに抑えることができます。翻訳を必要とする分野や量によって料金プランを設定すれば、よりコストを抑えて利用していくことも可能でしょう。
(3)納期
翻訳会社を利用する場合には、文字数や用語の専門性によってばらつきが生じます。早ければ3~4日で対応できる場合もありますが、契約書の修正・交渉を繰り返す度に翻訳すれば数週間かかってしまうこともあるでしょう。自動翻訳システムを利用する場合には、社内で対応することが可能であり、外注でのメール対応の時間を短縮することができるでしょう。また、A4のプリント1枚を1分程の時間で翻訳することができ、スピード面でも十分な性能を有しているでしょう。
最新の翻訳技術
翻訳会社を用いますと、精度という部分では正確な翻訳を期待することができるでしょう。しかし、ある程度のコストや時間がかかってしまいます。そこで、近年技術革新の目覚しい自動翻訳システムが注目されています。グローバルな競争の時代の中、欧米系の企業では、既に自動翻訳を使って作業を効率化するのがスタンダードになっています。機械翻訳は翻訳を人力ではなく機械が行なうため、精度の面から長年改善が必要とされていました。機械翻訳のミスによりサッカー選手の移籍契約の締結が破談になった事件もあります。しかし、AIが膨大なデータからルールの適切な適用を自ら学ぶシステムの中で、その精度の問題が改善が図られました。また、AIが翻訳を行なうことで、その分の時間を他の業務に使うことができます。さらに、精度の高いサービスを利用することで、社内でのチェック・修正を短時間で終えることができ、外注での翻訳のコストを下げることもできるでしょう。
おわりに
外務省が在外公館などを通じて実施した「海外在留邦人実態調査」と「海外進出日系企業実態調査」によりますと、2016年10月1日時点で海外に進出している日系企業の総数(拠点数)は7万1820拠点となりました。前年に比べて約1.0%(691拠点)増となり、過去最多を記録しました。このように、多くの日本企業が海外へ進出しており、新たなマーケットを開拓する上で、海外との取引を行なう機会は今後も増えてくると思います。このような流れの中で、英文での契約書審査やメールを行なう機会も増え、迅速かつ正確な対応が必要となります。
翻訳方法については各社の状況によって異なりますが、AIによる翻訳は今後益々その精度は増していき、どの程度のものかを確認してみることもできるでしょう。最近では、利用者が選択した分野に合わせたデータベースや、社内表現をAIが学習して翻訳に反映するサービスもあります。専門的な内容の分野であっても、それに対応したアウトプット(専門用語や契約書特有の言い回しなど)をAIが自動で行ないます。専門知を有する人間の翻訳者の知恵をAIが学習し、使えば使うほどその精度は増していきます。AIとともに成長を楽しむことができるかもしれません。
翻訳はAIに任せ、人はそのチェックを行なうだけで他のコアな業務に集中することができ、業務の大幅な効率化を図ることができるでしょう。
※以下のリンクからは本記事でご紹介したAI自動翻訳のお問い合わせができます。
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