QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第31回 秘密保持契約(契約条項3)
2022/09/01 契約法務, 不正競争防止法
今回も、前回に引続き、「(単発式)相互NDA」(両当事者が相互に秘密情報を開示する秘密保持契約書)として筆者が作成したひな型(以下「本NDA」)の各条項について解説していきます。今回は以下のQ7~Q9です。本NDA全文のPDF/Wordはこちらにあります。
Q1:契約前文
Q2:秘密情報の定義
Q3:秘密情報から除外される情報 (以上第29回)
Q4:秘密情報の開示方法(秘密表示等)
Q5:使用目的の制限
Q6:開示の制限 (以上第30回)
Q7: 秘密情報の管理/複製制限/漏えい等の報告・対応/附帯条件
Q9: 開示禁止の例外 (以上今回)
Q10: 秘密情報の使用中止・返還・破棄等
Q11: 秘密情報の知的財産権・保証等
Q12: 差止・損害賠償
Q13: 契約解除・秘密保持義務等の存続
Q14: その他(輸出管理規制・完全合意・裁判管轄等)/契約書末尾
Q15: 別紙(秘密情報の特定・秘密保持期間・使用目的・附帯条件)
Q7: 秘密情報の管理/複製制限/漏えい等の報告・対応/附帯条件
A7: 以下に規定例(第2条第3項)を示します。
第2条(目的制限、秘密保持、複製制限、秘密保持期間等) 1.(使用目的の制限:前回解説) 2.(開示の制限:前回解説) 3. 各当事者は、秘密情報について、本契約の違反・漏えいの防止等を含め、善良な管理者の注意をもってこれを管理するものとする。 4.各当事者は、秘密情報について、その使用目的での使用に合理的に必要な範囲を超えてその内容を複製しまたは他の情報に含めてはならないものとする。 5.各当事者は、秘密情報について本契約の違反・漏えい等またはそのおそれを発見した場合、直ちに相手方当事者に通知し、当該秘密情報の回収等、必要な是正措置を講じるとともに、更なる違反・漏えい等を防止するため、全ての合理的な措置を講じなければならない。 6.各当事者は、別紙に秘密情報の取扱いに関し附帯条件が定められている場合には、当該条件に従うものとする。附帯条件の内容が本契約本文に定める条件と相違する場合にはその相違点について付帯条件の内容が優先するものとする。 |
【「善良な管理者の注意」】「善良な管理者の注意」は、民法400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)・644条(受任者の注意義務)等に登場し、一般に、その立場・地位・職業等にある者として通常期待される注意義務です。「善良な管理者の注意」は、民法413条(受領遅滞)・659条(無報酬の受寄者の注意義務)に登場する「自己の財産に対するのと同一の注意」より一段高い水準の注意義務とされています。
なお、「善良な管理者の注意」は日本法独自の概念なので、外国企業と締結するNDAに用いることはできません。
第2条第4項:複製等の制限
【「その使用目的での使用に合理的に必要な範囲を超えて」】片務的NDAを使い開示者にとり重要な秘密情報を開示するような場合、複製可能な部数を限定しまたは複製を全面禁止することも考えられます。
しかし、上記条項例では、このNDAは相互NDAであること、複製可能部数を限定した場合その部数を超える複製が必要な場合にはその都度書面許可等が必要になり実務的でないこと等により、複製等が許される場合・部数を「合理的に必要とされる」範囲としています。
第2条第5項:漏えい等の報告・対応
各当事者に、秘密情報について本NDA違反・漏えい等またはそのおそれを発見した場合における、報告義務・対応義務を課しています。
第2条第6項:附帯条件
例えば、受領者が秘密情報を開示する取締役・役員・従業員(または部署)を限定する/特定のアドバイザー、コンサルタントに開示できるようにする/秘密情報の管理方法を具体的に指定する/複製可能部数を限定する/秘密情報であるコンピュータプログラムの使用条件・リバースエンジニアリング禁止等を規定する等、NDA本文に定められていない条件、または本文と異なる条件を定める必要がある場合に、ひな型である本NDAの本文自体は修正せず、別紙でそれらの条件を定めることができるようにしています。
Q8: 秘密保持期間
A8: 以下に規定例(第2条第7項)を示します。
7.本条に定める義務は、秘密情報の受領時から別紙に定める期間存続するものとする。但し、本契約の存在等についての当該義務は、両当事者が当該義務の免除または解除に同意するまでの期間存続するものとする。以下、これらの期間を秘密保持期間という。 |
【解 説】
本NDAでは、別紙に(秘密情報およびその使用目的とともに)「本条に定める義務」(使用目的・開示の制限等)の存続期間(「秘密保持期間」)を記載することとしています。他のNDA例では、NDA本文中に具体的な秘密保持期間を記載する方式もありますが、本NDAでは、別紙に以下の例のように記載することによって秘密情報ごとに秘密保持期間を変えたい場合にも対応することができます。
・技術仕様書○○○○:その開示から3年間 ・××××成分表:除外情報(秘密情報に含まれない情報)に該当するまで |
秘密保持期間は、一般的には、開示・受領時点から起算して3年とする例が最も多く、長くても7年程度の例が多いと思われます。しかし、例えば、(仮に開示することがあるとすれば)コカ・コーラの原液の成分、ソフトウェアのソースコード、(個人顧客や役員・従業員等の)個人情報・要配慮個人情報(前提としてその第三者提供は個人情報保護法に従う必要がある)等、開示する情報の内容・性質によっては(公知情報等除外情報に該当するまで)ほぼ永久の秘密保持が必要かつ合理的な場合もあります。
【秘密保持期間を何ら定めないNDA】この場合は、秘密保持期間は永久ということになりますが、本当にそれで問題ないか検討する必要があります。
【NDAの有効期間=秘密保持期間の例】他のNDA例では、NDAの有効期間(契約期間)のみを定めているものがあります。この場合には、NDAの有効期間=秘密情報を交換する期間/受領者が秘密情報を使用できる期間/秘密保持期間になると思われます。その結果、全ての秘密情報の秘密保持期間が、各秘密情報の開示の時期やその内容・性質にかかわらず、一律に同じ有効期間満了時までとなり、例えば、有効期間満了日直前に開示された秘密情報については秘密保持期間が極めて短い結果となります。本当にそれで問題ないか検討する必要があります。
同じ例で、更に自動更新条項がある場合は、不更新通知をしない限り、秘密保持期間が永久に延長される結果となります。本当にそれで問題ないか検討する必要があります。
【NDAの有効期間+秘密保持義務存続の例】NDAの有効期間を定めた上で、有効期間満了後も秘密保持義務(またはそれを規定した条項)が期間の定めなくまたは一定期間(○年間)存続するとする例もあります。
有効期間満了後、期間の定めなく存続するとする例では、結局、秘密保持期間は永久ということになります。本当にそれで問題ないか検討する必要があります。
有効期間満了後、一定期間(○年間)存続するとする例では、秘密情報の開示の時期やその内容・性質にかかわらず、有効期間の初期に開示された秘密情報の秘密保持期間は長く、有効期間末期に開示された秘密情報については短くなります。本当にそれが合理的なのか検討が必要です。
Q9: 開示禁止の例外
A9: 以下に規定例を示します。
第3条(開示禁止の例外) 前条にかかわらず、第三者に対する秘密情報の開示は、それが適用ある法令もしくは当該法令に基づく行政機関もしくは司法機関の命令または適用ある証券取引所の規則を遵守するために合理的に必要な範囲内での開示である場合には禁止されないものとする。 但し、かかる開示を行う当事者は、それが法的に許される範囲内で、以下の事項を実施するよう合理的な努力をするものとする。 (1)秘密保持命令またはそれと同等の措置の申立によることを含め、第三者に開示される秘密情報が、秘密に保持され、かつ、当該法令、命令または規則により当該開示が要求される目的・範囲内でのみ使用されるようにすること。 (2)可能な限り早期に相手方当事者に当該開示について通知し、かつ、相手方当事者による当該開示義務への異議申立その他の権利行使に協力すること。 |
【解 説】
【法令等による強制開示】例としては以下のようなものが考えられます。
(a)独占禁止法、所得税法等に関する当局の調査
(b)警察・検察の捜査
(c)裁判所命令等
(d)当事者が上場会社の場合の証券取引所の適時開示制度[1]
【強制開示の対象情報を秘密情報から除外する例】しばしば、政府機関等による開示命令を受けた情報を秘密情報から除外される情報の一つとしているNDAを見かけます。
しかし、そのような情報は、当該命令に従うため必要な限度で当該政府機関等への開示が許容されるとしても、それ例外の者に対する開示等が許されるべきではありません。従って、そのような例は不適切です。
【但書:受領者の義務】 ここで「法的に許される範囲内で」および「合理的な努力」としたのは、例えば警察の捜査・公正取引委員会の犯則調査[2]等においては、事前または事後に開示者に通知等することが法的に問題がある場合または合理的・現実的に考えてまたは企業のレピュテーション上、不可能または極めて困難な場合があるからです。
【「秘密保持命令」】日本では、秘密保持命令は、一方当事者から訴訟で提出される準備書面または取り調べられる証拠等に営業秘密が含まれる場合に、相手方の当事者本人もしくは代表者、相手方の代理人、使用人その他の従業者または訴訟代理人もしくは補佐人に対して、当該営業秘密を当該訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、または当該営業秘密を秘密保持命令を受けた者以外の者に開示することを禁止するものです。[3]
【注】
[1] 【証券取引所の適時開示制度】 (例)加藤&パートナーズ法律事務所「M&A取引における情報開示⑵‐金融商品取引所規則による適時開示」
[2] 【公正取引委員会の犯則調査】 (参考) 公正取引委員会「犯則調査権限」
[3] 【秘密保持命令】裁判所ホームページ「秘密保持命令の申立てについて」
【免責条項】
本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては, 自己責任の下, 必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐ等してご対応ください。
【筆者プロフィール】 浅井 敏雄 (あさい としお) 企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事 1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を日本・米系・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格 (現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe) 【発表論文・書籍一覧】 |
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