QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第44回Webサービス利用規約:総論
2023/03/15 契約法務, IT法務, 民法・商法, 消費者契約法, IT
今回から, Webサービスの利用規約について解説します。今回は, その第1回目として, 具体的な条項の解説に入る前に消費者契約法等の総論的なことを解説します。
【目 次】 Q3: 消費者契約法8条1項・3項(賠償責任免除条項の無効)とは? Q4: 消費者契約法8条2項(契約不適合責任条項の扱い)とは? Q5: 消費者契約法8条の2(消費者に解除権を認めない条項の無効)とは? Q6: 消費者契約法9条(解約料・遅延損害金条項の無効)とは? Q7: 消費者契約法10条(消費者を一方的に害する条項の無効)とは? |
Q1: Webサービスとは?
A1: 本稿で想定するWebサービスは, 主にWebサイト上で有償で提供されるオンラインサービスです。
これには, Webサイト上で提供されるとともにスマートフォンのアプリでも提供されるものや, いわゆるクラウドサービスと呼ばれるものも含まれるものとします。[1] 本稿では, このWebサービスは, 事業者だけでなく一般の消費者にも利用されるものと想定します。
Q2: Webサービス契約の法的性質・関係法・注意点は?
A2: 以下の通りです。
1. 法的性質
Webサービスは, 一般的には民法上の準委任契約(民法656, 643)に該当することが多いと思われます。しかし, Webサービスの実際の契約条項でその内容を自由に定めればよいので, 同契約が民法上のどの典型契約に該当するかを検討する意義はあまりありません。
2. 定型約款
Webサービスの契約条項は, 通常, サービス提供者側で利用規約として作成されますが, この利用規約は, 多くの場合, 民法上の定型契約(民法第548条の2)に該当し得ると思われます。
従って, サービス提供者側としては, 民法第548条の2第1項に従い定型約款の合意が有効に成立するようWebサイトの画面を設計しなければなりませんが, 例えば, 以下のような手順・条件が考えられます。
① サービスを利用するためのアカウント作成または登録の前に「このサービスには○○利用規約が適用されます」等の表示がされ, その下に, 利用規約が表示されるようにする。 ② その利用規約の下に, 「利用規約に同意してアカウントの作成を完了する」等の表示がされ, その表示自体, 同意ボタンまたはチェックボックスをクリックまたはチェック入れすると, アカウントの作成が完了するようにする。 |
更に, 利用規約の変更については民法第548条の4(定型約款の変更)に従わなくてはなりません。
3. 消費者契約法
上記Q1の通り, 本稿では, このWebサービスは, 事業者だけでなく一般の消費者にも利用されるものと想定しているので, 消費者契約法の適用があります。同法は, 2023年6月1日改正(第8条3項(サルベージ条項の無効)の追加を含む)が施行されますが, 本稿ではその改正後の法内容に基づき解説します。
特に同法の以下の規定により利用規約の条項が無効とならないようにしなければなりません。
・第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
・第8条の2(消費者の解除権を放棄させる条項等の無効)
・第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
・第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
同法の上記各規定の内容については次のQ3以降で具体的に解説します。
Q3: 消費者契約法8条1項・3項(賠償責任免除条項の無効)とは?
A3: 以下の通りです。
【条文テキスト】(形式一部修正, 下線・太字は重要部分)
第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効) 1 次に掲げる消費者契約の条項は, 無効とする。 (1) 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し, 又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項 (2) 事業者の債務不履行(当該事業者, その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し, 又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項 (3) 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し, 又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項 (4) 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者, その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し, 又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項 2 (省略。次のQ4で解説) 3 事業者の債務不履行(当該事業者, その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者, その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって, 当該条項において事業者, その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは, 無効とする。 |
しかし, それでは, 同条の存在意義がなくなるし, また, 消費者庁の消費者法「逐条解説(令和5年2月)」(以下「逐条解説」という)では, そのような規定と同様の後記(*)の条項例を無効としている。従って, このような解釈はできないと思われる。
【上記条文の要点】
上記条文は分かりにくいですが, 「逐条解説」の解説を踏まえ, 以下の(a)~(c)の通りまとめることができます。なお, 以下の(条項例)は「逐条解説」にあるものです。
(a)事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項(と読めてしまうものを含む)は無効(8条1項1号・3号)
(条項例)「いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない」は無効
(条項例)「事業者に責に帰すべき事由があっても一切責任を負わない」は無効
(条項例)「事業者に故意又は重過失があっても一切責任を負わない」は無効
(条項例)「事業者は, 商品の品質等に不適合があっても, 一切損害賠償, 交換, 修理をいたしません」は無効 (*)
(b)事業者の損害賠償責任の一部のみ免除(例:賠償額の上限設定, 特別損害の除外)する条項だが, 故意重過失により生じた損害が除かれることをその条項中で明示していない条項は無効, 明示している条項は有効(8条1項2号・4号, 8条3項)
(条項例)「いかなる理由があっても事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする」は無効。
(条項例)「事業者は通常損害については責任を負うが, 特別損害については責任を負わない」は無効。 — 上限を通常損害の額とすることで一部のみ免除に該当するが故意重過失により生じた損害が除かれることを明示していないから無効。
(条項例)「法律上許される限り, 賠償限度額を〇万円とする」は無効。 — いわゆるサルベージ条項。
(条項例)「事業者に故意又は重大な過失がある場合を除き, 損害賠償責任は○○円を限度とする」は有効。
【上記(a)・(b)を踏まえたWebサービス利用規約での対応】 サービス提供者の損害賠償責任を全部・一部を問わず免除する条項では, その条項中で「故意または重大な過失を除く」ことを明示する。
(c) 事業者に自己の損害賠償責任の有無または限度・範囲の決定権限を付与する条項は無効(8条1項1号~4号)
(条項例)「会社は一切損害賠償の責を負いません。ただし, 会社の調査により会社に過失があると認めた場合には, 会社は一定の補償をするものとします。」は無効。 — 事業者に自己の過失・損害賠償責任の有無の決定権限を付与していることになる。
(条項例)「当社が損害賠償責任を負う場合, その額の上限は10万円とします。ただし, 当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは, 全額を賠償します。」は無効。 — 一部免除(10万円限度)だが, 事業者自身が故意重過失はないと決定すれば自己の損害賠償責任の限度を10万円とする決定権限が付与されていることになる。
【上記(c)を踏まえたWebサービス利用規約での対応】 モバゲー事件高裁判決[2]で問題とされた規約の条項と同様の以下の(修正前条項例)のように, 事業者が自己の損害賠償責任の有無・限度(範囲)を自ら決定できると解釈される可能性のある規定は, 以下の(修正後条項例)のように修正する。
(修正前条項例)「......その他ユーザが本サービスの利用者として不適切であると当社が判断した場合には, 当社は, そのユーザ資格を取消すことができるものとし, この取消しによりユーザに損害が生じても当社は損害賠償責任を負わないものとします。」
(修正後条項例)「.....その他ユーザが本サービスの利用者として不適切な場合には, 当社は, そのユーザ資格を取消すことができるものとし, この取消しによりユーザに損害が生じても, 当社の故意または重過失により生じた損害を除き, 当社は損害賠償責任を負わないものとします。」
(注1) 「不適切であると当社が判断した場合」でも「不適切な場合」でも, 実際に最初にその判断・主張をするのは当社であり, また, ユーザがその判断の不適切性を争う可能性には変わりがない。従って, そもそも前者のように記載するメリットはないように思われる。むしろ, 前者はその記載自体で消費者契約法第8条により無効とされるリスクがある。
(注2) 「不適切な場合」は「不適切と判断される場合」でも構わないと思われる。何故なら, 当社によってではなく裁判所等により客観的に判断される場合との意味だと主張できるだろうから。
(注3) 「当社が合理的根拠に基づいて合理的に判断する場合」のように記載することも考えられるが, このように記載しても, その判断の根拠や合理性も含め, 当社が判断することに変わりはなく, ユーザがその合理性を争う可能性があることには変わりがない。従って, このように記載するメリットはないように思われる。
または, 個々の条項では当社の損害賠償責任の免除を規定せず, 損害賠償条項の中で, まとめて以下のように規定する。
「当社は, 本規約および利用契約に基づく当社の権利行使, 行為または不作為に関連してユーザに生じた損害については, 当社の故意または重大な過失により生じた損害を除き, 責任を負わないものとします。」
Q4: 消費者契約法8条2項(契約不適合責任条項の扱い)とは?
A4: 以下の通りです。
【条文テキスト】(形式一部修正, 下線・太字は重要部分, [ ]内は筆者)
第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効) 2 前項第1号又は第2号[債務不履行により生じた損害賠償責任の全部・一部免除等の無効]に掲げる条項のうち, 消費者契約が有償契約である場合において, 引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき(当該消費者契約が請負契約である場合には, 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合には, 仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき。)。以下この項において同じ。)に, これにより消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任を免除し, 又は当該事業者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与するものについては, 次に掲げる場合に該当するときは, 前項の規定は, 適用しない[すなわち, 損害賠償責任の全部・一部免除等を無効とはしない]。 (1) 当該消費者契約において, 引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに, 当該事業者が履行の追完をする責任又は不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合 (2) (省略) |
【上記条文の要点】
上記条文は分かりにくいですが, 「逐条解説」の第8条第2項についての解説を踏まえ, 以下の通り要約できます。なお, 以下の(条項例)も同解説にあるものです。
— 有償契約における契約不適合に関し, 事業者が履行の追完または対価減額の責任を負う限り, 損害賠償責任は全部または一部しか負わないとする条項は有効。
(条項例)「ソフトウェアの不適合については交換・修補・代金返還のいずれかにより対応し, 損害賠償責任は負わない」(ソフトウェアの使用許諾契約の例)は有効。
(注) 問題のWebサービス契約が準委任契約に該当する場合, 受任者は(善管注意義務は負うが)そもそも契約不適合責任は負わないのではないか, 従って, 契約不適合責任に関する上記消費者契約法第8条第2項の適用はないのではないかとの疑問も生じる。しかし, 有償の準委任に基づきなされた業務が契約の内容・条件に適合しない場合には, 売買の契約不適合の規定(562~564条)が民法599条(売買の規定の有償契約への準用)を通じ準用され, 受任者にも履行の追完・代金減額・損害賠償・解除等に関する責任が生じると解される可能性は十分あると思われる[3]。また, そもそも, 消費者契約法8条2項は有償契約について規定しているので, 問題のWebサービスも有償契約である限り同項が適用される余地がある。更に, 「逐条解説」は, 上記(条項例)の通り, ソフトウェアの使用許諾契約についてもソフトウェアの「不適合」に関し同項の適用があることを当然の前提にしている。Webサービスもソフトウェアを利用して運営されており, そのサービスの契約「不適合」を観念できるから, 同様に消費者契約法8条2項が適用されると解するのが自然である。
以上よりWebサービスにも消費者契約法8条2項が適用されることを前提とすると, 同項(1)号の「又は」から, サービス提供者はサービスの不具合に関し是正等の追完責任は否定してもよいが, 少なくとも利用料金の減額をする責任は負うものとし, その上で, 損害賠償責任は負わないと規定するのであれば, その損害賠償責任の免除は, 第8条第1項により無効にされることはなく有効と解される。
【上記を踏まえた利用規約での対応】 サービス提供者のサービスの不具合に関する責任に関する条項を, 例えば, 以下のようにする。
「当社は, 本サービスに関する全ての不具合が是正されることを保証せず, その他本サービスの不具合に関し責任を負わないものとします。但し, 当社が継続して〇日以上本サービスをユーザに利用させることができない場合, ユーザは, 〇日を超える利用不能日数に対する利用料相当額について利用料の免除を受けることができるものとします。この責任以外に, 当社は, 本サービスの不具合によりユーザに生じた損害(但し当社の故意または重過失により生じた損害を除く)に関し責任を負わないものとします。」
Q5: 消費者契約法8条の2(消費者に解除権を認めない条項の無効)とは?
A5: 以下の通りです。
【条文テキスト】(形式一部修正, 下線・太字は重要部分)
第8条の2 (消費者の解除権を放棄させる条項等の無効)
事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ, 又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する消費者契約の条項は, 無効とする。 |
【解 説】
以下は「逐条解説」にある条項例です。
(条項例)「いかなる場合でも契約後のキャンセルは一切受け付けられません」は無効。但し, 別途事業者による債務不履行に対する解除の条項がある場合を除く。
Q6: 消費者契約法9条(解約料・遅延損害金条項の無効)とは?
A6: 以下の通りです。
【条文テキスト】(形式一部修正, 下線・太字は重要部分)
第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
1. 次の各号に掲げる消費者契約の条項は, 当該各号に定める部分について, 無効とする。 (1) 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し, 又は違約金を定める条項であって, これらを合算した額が, 当該条項において設定された解除の事由, 時期等の区分に応じ, 当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分 (2) 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には, それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し, 又は違約金を定める条項であって, これらを合算した額が, 支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について, その日数に応じ, 当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分 2. 事業者は, 消費者に対し, 消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し, 又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において, 当該消費者から説明を求められたときは, 損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第12条の4において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。 |
【上記条文の要点】
本条の意味は, 要するに, 以下の通りです。
(a) 消費者に課す解約料は「事業者に生ずべき平均的な損害の額」, 支払遅延損害金は「年14.6パーセント」, それぞれを超える部分は無効。
(b) 事業者が解約料・遅延損害金を請求する場合, 消費者から求められれば, その算定根拠の説明努力義務がある。
【上記を踏まえた利用規約での対応】
(a) 消費者に解約料を課す場合には「事業者に生ずべき平均的な損害の額」として認められる額を定め, 消費者の求めに応じ説明できるようその算定根拠を文書化しておく。
(b) 支払遅延損害金を定める場合には「年14.6パーセント」以下に定める。消費者からその根拠の説明請求があった場合には消費者契約法で認められている範囲内であること等を説明する。
Q7: 消費者契約法10条(消費者を一方的に害する条項の無効)とは?
A7: 以下の通りです。
【条文テキスト】(形式一部修正, 下線・太字は重要部分)
第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって, 民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは, 無効とする。 |
【解 説】
本条の意味は, 要するに, 消費者契約法8条・第8条の2・第9条以外でも, 民法等の任意規定に比べ消費者の権利を制限しまたはその義務を加重する条項であって, 民法の信義誠実原則に反し消費者の利益を一方的に害するものは無効ということです。
「逐条解説」では, 「公の秩序に関しない規定」(=任意規定), 「消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する」および「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」を第一要件とし, 「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して」および「消費者の利益を一方的に害する」を第二要件とし, 第一要件と第二要件の両方を満たす場合には無効になると解説しています。
Webサービスの利用規約に関し参考になり得るものとしては, 以下のような例の解説があります。
(a) 「自動更新条項も, 形式的にはこの例示[消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項]に該当する契約条項ということになるが, その契約の内容等にもよるものの, そのような契約条項の中には, 煩瑣な手続を回避することができるという点で消費者にとって便利であり, 更新により消費者が受ける不利益も小さいと評価できるものも多く, 第二要件を満たさない(無効とされない)場合も多く存在すると考えられる」。
(b) 「民法第 541 条により, 相当の期間を定めた履行の催告をした上で解除をすることとされている場面について, 特に正当な理由もなく, 消費者の債務不履行の場合に事業者が相当の期間を定めた催告なしに解除することができるとする契約条項については, 無効とすべきものと考えられる」。
(c) 「契約不適合責任の権利の行使期間については, 当該契約内容の特性等により任意規定と異なる定めをすることは許容されるべきであるが, 正当な理由なく行使期間を法定の場合よりも不当に短く設定する契約条項は, 民法第 566 条(権利の行使期間は事実を知ったときから1年以内)に比べ, 消費者の義務を加重するものとして, 無効となり得る」。
(d) 「消費者の生命又は身体の侵害による損害賠償責任を免除する契約条項は, 本条によって無効となり得ると考えられる。参考になる裁判例として, 事業者が損害賠償責任を負う範囲を, 事業者の故意又は重過失に起因する損害以外は治療費等の直接損害に限定する契約条項について, 本条の規定により無効である疑いがある旨を判示したものがある」。
(e) 「ウェブサイト利用規約において, 消費者が情報等を事業者に送付したことをもって, 当該情報等に関する一切の権利を放棄したものとみなす契約条項」は, 諸事情を考量して「本条の第二要件にも該当すると判断された場合には, 消費者の所有権等を放棄するものとみなす契約条項は無効となり得る」。
(f) 「第8条及び8条の2の規定に該当しない決定権限付与条項及び解釈権限付与条項であっても, ...消費者の権利又は義務を定める任意規定の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する契約条項には, 個別の事案によるものの, 本条の規定の要件を満たし, 無効となり得るものがある」。
【上記を踏まえた利用規約での対応】 上記各事項に関連した規定を設ける場合には, 上記各例を十分考慮して規定する。
今回はここまでです。
[1] 【本稿における主な参考資料】 (1) 消費者庁の消費者法「逐条解説(令和5年2月)」第8条~第10条部分、(2) 増田雅史, 杉浦健二, 橋詰卓司「新アプリ法務ハンドブック」 2022/12/12, 日本加除出版(以下「増田他」という)第3章(p.96-132)、(3) 伊藤 雅浩, 久礼 美紀子, 高瀬 亜富 「ITビジネスの契約実務〔第2版〕」2021/10/18, 商事法務
[2] 【モバゲー事件高裁判決】 東京高等裁判所令和2年(2020年)11月5日免責条項等使用差止請求控訴事件判決。この判決文だけからは内容がよくわからないが、上記注の「増田他」p.106-108に内容がまとめられている。
[3] 同旨。上山浩、若松牧「準委任契約の誤解を解きほぐす─システム開発契約を題材に─」, 知財管理 Vol. 70 No. 5, 2020, p.630 「民法改正前は,準委任には瑕疵担保責任の適用はなかったが,民法改正により準委任を含む有償契約に契約不適合責任の適用があると解する余地もある」。
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【免責条項】
本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
【筆者プロフィール】 浅井 敏雄 (あさい としお) 企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事 1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe) 【発表論文・書籍一覧】 |
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