災害と法務【取引契約、独禁法、下請法関連】
2014/03/03 契約法務, 独禁法対応, 下請法, 独占禁止法, その他
災害と法務に関して前回は労働法上の注意点を挙げた。(2月24日法務ニュース)今回は取引契約、独占禁止法、下請法上の注意点を挙げる。
【取引契約】
①債務不履行
部品の調達が著しく困難になり期日通りに商品を納入することができなかったり、道路などの輸送経路の麻痺や、行政からの避難指示等により納品が著しく困難となった場合には不可抗力によるものとして、履行遅滞に基づく債務不履行責任は生じないものと考えられる。
もっとも取引先の被災により、入る予定の売上金が入ってこなくなり、別の取引先に代金を支払うことができなくなってしまった場合には、不可抗力による遅滞責任を免れない(金銭債務の特則:民法419条3項)
また契約の目的物が特定物(不動産、中古車など)の場合には、その物が滅失して履行不能になった場合は目的物の引渡し債務も消滅し、買主の代金支払債務も消滅する。(危険負担の債務者主義:民法534条2項、536条1項)
②契約後の事情変更
契約当事者双方に責任はないが、契約内容をそのまま一方に強制することが信義に反する場合、当該契約の解除や内容の全部または一部の変更が認められることがある。
例えば商品の供給自体はできるものの、災害により部品、資材の価格が高騰し、契約通りの代金では売主が多大な損失を被ってしまう場合に、代金の増額や契約の解除が認められるかが問題となる。
事情変更の原則が認められる一般的要件は以下の通りである。
a契約成立当時その基礎となっていた客観的事情が契約後に変更したこと
b契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができなかったこと
c事情変更が当事者の責めに帰することができない事由によって生じたものであること
d事情変更の結果、当初の契約内容に当事者を拘束することが著しく公平に反し、信義則にもとること
判例上は同原則の適用は厳格になされていて、容易には認められない傾向にあるようである。
【独占禁止法関係】
①災害に伴った販売個数の調整
事業者が共同し、又は事業者団体が、顧客1人当たりの販売個数を調整する行為は、 被災地の物資の不足を補うために行われ、その実施期間、地域が物資の不足が深刻な期間、地域に限定されているならば独禁法上問題ない。
②競合他社との協力
災害により自社で顧客への商品供給ができない場合に、競合他社に商品を供給してもらったり、商品の生産を委託することは、供給能力が復旧するまでの期間、供給確保が必要な範囲内で行えば独禁法上問題ない。
もっとも、これを契機として複数事業者間で価格、供給量の調整などの競争回避行為が行われれば問題となる。
③納入業者に対する協力要請
例えば大規模小売業者が納入業者に対して、被災した店舗の原状回復作業の協力を要請した場合に優越的地位の濫用として独禁法上問題が生じうる。
この点、小売事業者の営業が再開されれば、納入業者の利益にもなることであるから、災害を口実として小売事業者が納入業者に不当な不利益を与えなければ、両者協議の上協力が行われることは問題ない。
【下請法関係】
①親事業者の受領拒否
親事業者の工場等の滅失などにより受領能力がなくなったとして、下請業者からの受領を拒否することは下請法上問題となるか。
親事業者が受領拒否をすることは、下請事業者に責任がある場合でなければ問題となる。代替的な工場での受領など、親事業者は可能な限り受領する手段を講じる必要がある。
もっとも親事業者が被災等で当初の期日に受領することが客観的に困難である場合は相当期間の受領期日の延期が認められる可能性がある。
②下請事業者による値上げ要請の拒絶
調達コスト上昇による下請事業者の単価引上げ要請に対して、親事業者が従来の価格で据え置くことは下請法上問題となるか。
災害の影響で、下請事業者のコストが通常時に比べて大幅に増加しているにも関わらず、下請事業者と十分に協議することなく通常時の単価と同一に一方的に据え置くことは、買いたたきとして下請法上問題となる。
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