郵便局が配達業者から不当に違約金を徴収か、公取委が指導
2025/01/15 契約法務, コンプライアンス, 下請法, 流通, 物流
はじめに
宅配便の配達を委託する業者から不当に違約金を徴収していたとして、日本郵便株式会社が昨年6月に公正取引委員会から下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)で指導を受けていたことがわかりました。
公取委が指導 不当に違約金徴収か
報道などによりますと、公正取引委員会は、2023年から2024年にかけて関東地方にある郵便局と委託業者の契約を調査していたといいます。調査の結果、郵便局が宅配便「ゆうパック」の配達を委託した業者へ十分に説明をせず、不当に高額な「違約金」を徴収していたと判明しました。
違約金は、「配送ミス1件につき3万円」、「タバコ臭クレーム1件につき1万円」といった具合に、クレームなどがあった際に、日本郵便の内規で定められた金額を目安にしつつ、各郵便局の判断で具体的な金額を決め徴収していたといいます。一部では違約金が10万円に達するケースもあったということです。
2023年4月時点で日本郵便には、集配を行う郵便局が全国で1074局あり、そのうちの9割強にあたる約1000局で配達業務を外部に委託していました。日本郵便から配達の委託を受けた業者が自営業のドライバーなどに再委託している場合もあり、違約金の支払いを自営業のドライバーが行うケースもあったといいます。
公正取引委員会は、負担額の明確な根拠を示さずに行われた違約金の徴収が、下請法が禁じる「不当な経済上の利益の提供要請」にあたると判断。2024年6月、日本郵便に違約金制度の是正を求め、指導したということです。
これを受け、日本郵便は、2025年4月までに違約金の運用を全国で統一する方針を示しています。
なお、今回の指導の対象となった違約金制度ですが、もともとは、日本郵便が配達ミスの抑制など、サービス向上を目的として2003年12月に導入したものです。公正取引委員会は、違約金制度自体を違法とは認定していません。
違約金制度の運用
今回、問題視された日本郵便の違約金の徴収。一般的に、“違約金”には、(1)損害賠償の予定としての違約金と、(2)違約罰(損害賠償とは別に支払う、いわゆる罰金)としての違約金の2種類があるとされています。
(1)損害賠償の予定としての違約金
契約違反(債務不履行)が発生した場合に備え、違反者が支払うべき損害賠償の額をあらかじめ定めたものです。違約金の具体的な金額またはその明確な計算方法を事前に合意しておくのが一般的です。
ただし、この場合、違約金に加えて、別途損害賠償の請求はできないことになります。
(2)「違約罰」としての違約金
契約違反(債務不履行)をした側が、損害賠償とは別に、ペナルティーとして支払う、いわゆる罰金です。(1)と異なり、違約金と損害賠償の両方を違反者に請求することができます。
事前に、違約金の具体的な金額またはその明確な計算方法を合意しておくのは同様ですが、それに加え、違約金が「違約罰」としての性質を持つことを契約書に明記しておかなければなりません。
仮に、明記していない場合、(1)の損害賠償の予定としての違約金として扱われる可能性が高まります。
日本郵便が徴収していた違約金が、(1)と(2)いずれの性質のものであったかは明らかになっていませんが、最終的な徴収金額を各郵便局が裁量を持って弾力的に決定していたという話なので、実際の運用としては結果的に、「違約罰+損害賠償」または、違約金ではなく単なる「損害賠償」を請求していた形になると考えられます。
いずれにせよ、損害賠償を相手方に正当に請求しようとする場合、当然ながら、損害賠償額の根拠を示す必要があります。そうでない場合、不当な金銭の請求(いいがかり、因縁等)と主張されるおそれがあるからです。
日本郵便の一部の局では、算定根拠を示さずに、違約金の徴収を行っていたということで、その点が、下請法第4条2項三が禁じる、「不当な経済上の利益の提供要請」と判断されたと考えられます。
コメント
日本郵便に配達を委託された業者がお客とトラブルを生じさせた場合、最終的には、委託元である日本郵便が謝罪その他のクレーム対応を行うことになると考えられます。
そのため、大量の委託先を抱える日本郵便の立場では、配達にまつわるクレームをいかに減らすかが、「配達サービスの品質安定」と「自社の人的リソースの節約」という点で、非常に重要になってきます。その手段として、たしかに、違約金制度は有効です。
しかし、正しく運用を行わない場合、「仕事をあげる側」、「お金を払う側」という強い立場を利用した、不当な金銭の請求ととられかねません。
今回の指導を受けて、日本郵便がどのように違約金制度を整備していくのか、注目されます。
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