復旧道路工事談合事例に見る両罰規定
2016/03/10 独禁法対応, 独占禁止法, 建設
はじめに
平成28年2月29日、公正取引員会は日本道路株式会社ら会社10社とその従業者11名を告発しました。告発の理由は、従業者間の約束に従って舗装災害復旧工事についてそれぞれ工事の引き受け予定事業者を決定したことで、独占禁止法3条の不当な取引制限の禁止に抵触したと公正取引委員会が判断したためです。一方で会社側は早期復興のために必要な約束だったと反論していますが、今回は本件を題材に、不当な取引制限に該当する行為を明らかにし、その罰則について紹介します。
(1)不当な取引制限に該当する行為の定義
独占禁止法3条は、事業者は、不当な取引制限をしてはならないとしています。そして2条では、この法律において不当な取引制限とは、事業者が、他の事業者と共同して対価を決定し、相互にその事業活動を拘束し、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を制限することをいうと定義しています。
本件の約束は、具体的には入札談合に当たります。入札談合とは、国や地方公共団体などの公共工事に関する入札に際し、事前に、その工事を引き受ける業者や引き受ける金額などを決めてしまう行為です。
(2)不当な取引制限に該当する行為の要件とその罰則
不当な取引制限に該当する行為に当たる要件は、
①事業者 営業を生業としている者(法人・個人営業を問わない)
②反公共利益性 公共の利益に反していること 公共の利益とは、国や地方公共団体の利益をいいます
③共同行為 2人以上の約束があること
④一定の取引分野 範囲の決まった取引事業であること
⑤競争の実質的制限 ある約束により、その約束には加わっていない者に対して競争上の不利益が発生していること
があります。このすべての要件を満たすことで、不当な取引制限に該当する行為、つまり入札談合とみなされます。入札談合とみなされた場合、談合に加担した従業者は89条1項1号(*1)により処罰されます。さらに95条には事業者にも罰則が設けられており、従業者を罰するほか、その事業主に対しても、五億円以下の罰金刑を科されることになります。このように、従業者とともに事業主にも罰則が科される規定を両罰規定と呼びます。
95条の両罰規定による会社処罰の規定について、判例では、入札談合をした従業者の選任や監督について、また違反行為を防止するために、必要な注意を尽くさなかったという過失が推定されるとしています。その注意を尽くしたことが証明された場合には、会社は刑事責任を免責されるという過失推定説を採用しているのです。つまり、いざ会社が起訴されると、会社自らが過失がないことを証明しなければならないのです。これは、会社にとって大きな負担となります。
*1 89条1項1号には、不当な取引制限をした者は五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処すと規定されています。
(3)本件の見通し
先述の通り、会社側の早期復興のために必要な約束だったとの反論が主な争点になりそうですが、その他にも談合の正確な内容、さらには会社の過失の有無が争点になりそうです。
コメント
入札談合を行った事業者に対して、国又は入札できなくなった事業者は損害賠償の請求ができます。この場合、事業者は故意・過失の有無を問わず責任を免れることができません(無過失損害賠償責任)。入札談合を行った従業者や業界団体の役員に対しては、罰則が定められています。このように、独占禁止法は事業者に重い無過失責任を負わせ、さらに罰則まで設け、自由な市場に対し徹底的な保護をしています。自由な市場は資本主義の根本であり、我が国が資本主義を採っている以上、頑として守られるべきものです。事業者は常に自らの行為が独占禁止法に違反していないかを確認し、自由競争を自ら守る姿勢が必要です。
事業者の皆様には、独占禁止法の重い罰則を知って頂き、違反した場合には会社にも罰則があることを今一度確認して頂きたいと思います。会社は談合等について知らないことに過失がないことを証明できなければ、罰金刑を科されうるのです。
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