サン・クロレラ訴訟に見る表示広告と差止請求権
2016/03/23 広告法務, 消費者取引関連法務, 消費者契約法, 景品表示法, 小売
はじめに
京都消費者契約ネットワーク(KCCN)がサン・クロレラ販売株式会社に対し、日本クロレラ研究会を通じて行ってきた広告の差止を求める訴訟で2月25日大阪高裁は一審を破棄し、請求を棄却しました。今回は表示広告と差止請求権について見ていきたいと思います。
事件の概要
サン・クロレラ販売は「サン・クロレラA」「サン・クロレラウコギ」等を販売してきましたが、日本クロレラ研究会は定期的に新聞折込広告でクロレラやウコギの摂取により、腰部脊椎管狭窄症、肺気腫、高血圧、自律神経失調症が改善するとして顧客を誘引しておりました。これらは医薬品ではないにもかかわらず、薬効があるかのように広告がなされていることから、実際のものより著しく優良であると誤認させる表示(景表法10条、消費者契約法12条1項)であるとして、適格消費者団体であるKCCNが広告の差止を求める訴えを起こしていました。一審では優良誤認表示による広告であることを認め、差止を命じました。二審では既に広告配布を中止していたことから、差止めるべき行為が不存在であるとして請求を棄却しました。
表示とは
景表法の規制する「表示」とは①顧客を誘引するための手段として②事業者が、自己の供給する商品・サービスの内容又は取引条件などについて行う③広告その他の表示を言います。また一般的に広告とは、顧客を誘引するために、特定の商品名が明らかにされ、一般人が認知できる状態にされているものを言います。今回の主な争点は、クロレラ研究会の折り込み広告がこの表示に該当するかです。本件折り込み広告はサン・クロレラ販売とは別のクロレラ研究会が頒布しており、また特定の商品名である「サン・クロレラA」「サン・クロレラウコギ」といった名称も記載されていませんでした。このことから広告に該当せず、景表法の規制する表示にも該当しないようにも見えます。この点について、一審京都地裁はサン・クロレラ販売とクロレラ研究会の代表が同一人物であること、クロレラ研究会に資料請求するとサン・クロレラ販売の商品資料が送られてくること等から、両者は実質的に同一であり、商品名の記載が無くとも消費者を誘引して「サン・クロレラA」等の購入を促進する仕組みができているとして表示に該当するとしました。
差止請求権
内閣総理大臣から認定を受けた適格消費者団体は、不特定多数の消費者のために法令に基いて差止請求権を行使することができます(消費者契約法2条4号、消費者基本法8条)。景表法10条および消費者契約法12条は適格消費者団体に不当表示の差止を請求することを認めています。一審では上記のように「表示」に該当し、差止を命じました。しかしサン・クロレラ販売側は、高裁判決が出るまでに、今後広告は配布しないとし、また実際にも配布は既に行われていませんでした。それにより高裁は差止を命じる必要性は既になくなっているとして、請求を棄却しました。
コメント
健康食品等の販売において、販売業者とは別個の研究団体を作り、それを通じて健康食品の効能等を広告していく手法は多く見られます。健康促進や病気の治癒効果を表示する広告は薬事法、薬機法によって厳格に規制されており、実際よりも優れた効能を有しているように表示すれば景表法や、消費者契約法に違反することになります。これらの規制を潜る手法として、商品名は表示せず別個の主体により広告を行うというものです。一審はたとえ商品名を表示していなくとも、販売と広告の主体が実質的に同一であり、特定の商品の販売促進のシステムが出来上がっているなら、表示とみなすべきとしています。このように判断しなければ景表法の目的を達成できず、法の潜脱を許すことになるとの判断からです。一方で不当表示であるとしても、広告を中止したり、広告方法を変更することによって結局は差止の必要なしとして棄却されることになります。KCCNは、これでは法が認めた差止制度に実効性がなくなるとして判決で違法であることを確定させるべく上告しています。現行法の規定では、サン・クロレラ販売が広告を既に中止している以上最高裁でも同様に判断され上告棄却となる可能性は高いと言えます。広告の文言や主体を変更した場合にも対処できる法改正が必要ではないでしょうか。
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