JASRACが無許諾事業者に一斉法的措置、音楽著作権について
2016/06/15 知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント
はじめに
JASRACは7日、音楽著作権の手続きを行わずに無許諾でBGMを使用する約187の事業者及び約212の店舗に対し簡易裁判所に民事調停の申立を行ったことを発表しました。各種商業施設や美容室等で幅広く使用されているBGMですが、多くの場合は多くの場合は著作権手続きを必要とします。今回は音楽著作権について見ていきます。
問題の背景
従来、美容室や喫茶店、スーパーやデパートといった商業施設ではBGMが流されてきました。1999年著作権法改正以前はこれらの施設はCD音源を使用しても使用料は免除されておりました。JASRACがこういった施設に対する著作権管理を始めた2002年以降は有線放送が主流となり、音楽著作権手続きはこういった有線放送業者が行っておりました。それによりほとんどの施設では個別に手続きを行う必要がなく有線放送をBGMとして使用していました。ところが近年インターネット等の普及によりBGMの音源が多様化し、手軽で簡単に音楽を入手し編集・放送することができるようになりました。有線放送ではなく各自がこういった音源を使用するようになり、個別に著作権手続きを経る必要が生じ始めました。しかしほとんどの施設、店舗等ではこれまで手続き等を意識することなくBGMを使用していたことから、無許諾のまま音楽が使用されているのが現状となっております。
音楽著作権
著作権法2条1号によりますと、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」としています。音楽については曲だけでなく歌詞も著作物に含まれます。思想や感情が表現されたものでなくてはならず、単なる事実やデータだけでは該当しません。人名と電話番号が羅列された電話帳等が典型例です。著作権は特許や商号といった他の知的財産権とは違い出願や登録を必要とせず、創作された時点で創作者に権利が発生します(17条2項、51条1項)。著作権には著作物を複製する権利(21条)、上演・演奏する権利(22条)、公衆送信する権利(23条)、貸与・譲渡する権利(26条の2)等多くの支分権が含まれます。このことから著作権は一般的に「権利の束」と呼ばれます。
著作者人格権
著作者には著作権の他に著作者人格権と呼ばれる権利が認められます。自己の著作物を公表するかどうか、いつどこでどのようにするかといった公表権(18条)、自己の著作物を公表する際に著作者名を表示するかどうか、実名か変名かを決定する氏名表示権(19条)、自己の著作物の内容を意に反して改変されない同一性保持権(20条)の3つの権利が著作権法条認められております。これらの権利は著作権と異なり、著作者に一身専属する権利であって譲渡や相続することはできないと言われております。
著作隣接権
著作者以外にも著作物の流通や伝達に重要な役割を果たしている実演家、レコード業者、放送事業者等には一定の権利が認められております。これを著作隣接権と言います。これらの権利者には一定の範囲で氏名表示権、複製権、放送権、送信権、貸与権等が認められます(89条)。音楽はそれを演じる実演家によってそれぞれ個性が現れ聴衆の感じ方が異なります。そこで創作物に準じる保護を与えました。またそれを録音し流通させるレコード業者や放送業者にもその役割の重要性から著作者に準じる保護を与えようというものです。
許諾を要しない場合
上記のように音楽は著作権によって保護されており、許諾を受けること無く複製したり店舗で使用することはできません。しかし一定に場合には例外が設けられており許諾を必要としない場合があります。以下具体的に見ていきます。
(1)私的使用のための複製
著作物を個人的に又は家庭内その他これに準じる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には複製することが認められております(30条)。自分自身や家族が個人的に楽しむ範囲で許されます。ただしデジタル方式で複製する場合には補償金の支払いが必要となります。また独自にプロテクションが設けられているものに関しても別途許諾が必要となります。
(2)営利を目的としない上演等
営利を目的とせず、聴衆から料金を取らない場合には許諾を受けずに演奏、上映することができます(38条)。要件として①営利を目的としていないこと②聴衆から料金を取らないこと③実演家にも報酬が支払われないことの3つを全て満たす場合に認められます。すでに複製・記録されたものを上映・配信する場合は該当しません。
(3)著作権保護期間の経過後
著作権は著作物の創作時から発生し、著作者の死後50年を経過することによって消滅します(51条)。また無名の著作物又は団体名儀の著作物はその公表後50年、映画は公表後70年経過することによって権利が消滅します(52条、53条)。これらの期間が経過し著作権が消滅した後は当然ながら許諾を必要としません。
コメント
音楽には著作権があり、無許諾で使用した場合には最悪の場合罰則を受けることになります。著作権侵害による罰則は10年以下の懲役、一千万円以下の罰金又は併科となっております(119条1項)。無許諾でJASRAC管理楽曲の演奏、カラオケ伴奏を繰り返していた新宿歌舞伎町のクラブの経営者が裁判所からの差止仮処分執行の封印を破棄して演奏を継続していた事例でも今年4月に著作権法違反及び封印破棄の容疑で逮捕されております。店舗や喫茶店、美容室での使用は上記許諾を要しない場合には当たらず著作権手続きを経て許諾を得る必要があります。店舗でのCD使用が過去に適法だった事情からもなかなかBGM使用に料金を支払うという感覚がもてないことも実情と言えますが、昨今著作権保護の声が高まっており突然法的措置を取られることも十分に考えられます。店舗等でBGMを使用している場合には手続きを踏んでいるか今一度確認することが重要と言えるでしょう。
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