最高裁「預貯金は遺産分割の対象に」、金融機関への影響は
2017/01/12 金融法務, 民法・商法, 金融・証券・保険
1 はじめに
最高裁は平成28年12月19日に、預貯金が遺産分割の対象になるかどうかの判断について、従来の遺産分割の対象外との判断を変更し、遺産分割の対象となると判断しました。そこで、本判例の内容を確認しながら、金融機関の法務担当者としてはいかなる対応をすべきかを説明していきたいと思います。
故人の預貯金も遺産分割対象に 最高裁が判例変更(日本経済新聞)
2 事件の概要
被相続人の遺産である約4000万円の預金が法定された相続分(民法900条4号)に従い、2人の相続人に2分の1である約2000万円ずつ分けられることについて、相続人の1人が5000万円以上の生前贈与を受けていたので、預金を均等に分けるのは不公平であるとしてもう1人の相続人が遺産分割に預金が含まれるかの判断を求めるために、裁判所に訴えを提起しました。
3 遺産分割とは
被相続人が遺言を残さずに死亡した場合に、相続財産は相続人全員の「共有」状態になります(民法896条、898条)。そして、「共有」状態となった財産を、各相続人の話し合いによって具体的に分配するのが遺産分割といいます。具体的な基準として、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情」を考慮するものとされます(906条)。
4 本事案での最高裁の判断
(1)預貯金一般の性格
まず、遺産分割の趣旨は被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることなので、一般的に被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいと述べたたうえで、実務上の観点から現金のように、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請が存在すると判断しました。そして、預貯金について「預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産である」としています。
(2)普通預金債権及び通常預金債権
両債権は口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと判断しました。そして、相続開始時における各共同相続人の法定の相続分相当額を算定できるものの預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎないと判断しました。
(3)定期貯金債権
定期貯金債権は、定期預金と同様に、多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上、貯金の管理を容易にして、定期郵便貯金に係る事務の定型化、簡素化を図る目的で、契約上その分割払戻しが制限されているものと解される。そして、定期貯金契約の要素として、通常貯金より利率が高く設定されています。そうすると、定期貯金債権が相続により分割されると解すれば、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反します。
(4)結論
したがって、預貯金一般の性格等を踏まえつつ、各種預貯金債権の内容及び性質から、共同相続された普通預金債権及び通常貯金債権、定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されず、遺産分割の対象になると判断しました。
5 金融機関の法務担当者への影響
遺産分割前の預金の払戻しについては、法定の相続分の払戻しを求めても、金融機関の行員は相続人全員の同意が無ければ応じないのが銀行実務における慣行です。もっとも、遺言の存否等を確認し、各共同相続人からの相続分の割合に応じた払戻請求には応じていました。
金融機関の行員がこのような対応を原則としているのは、個別の払戻請求に応ずることで、相続人間の紛争に巻き込まれることを回避するためだと考えられます。また、預金の二重払いのリスクを回避するためだとも考えられます。具体的には、遺産分割により預金を得ていない無権利者から預金の払戻請求をされた場合に、金融機関の行員が「善意」で「過失」なく弁済をすれば有効な弁済となるため(民法478条)、真の権利者から預金の払戻し請求を受けた場合には二重弁済をすることになるといえます。したがって、金融機関の行員による預金の払戻しに「過失」があり、無効な弁済と扱われない限り、無権利者に対して不当利得返還請求(民法703条、704条)ができない結果となるので不都合な事態が生じるといえます。
また、遺産分割の結果が変わることや遺産分割協議が長引くことが想定されます。
よって、金融機関の法務担当者は行員に対して、遺産分割協議が確定するまでは法定相続分であっても預貯金の払戻しに応じないように指導するのが無難であると思われます。
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