イーグルスがメキシコのホテルを提訴、米国商標権について
2017/05/09 知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, その他
はじめに
米ロックグループ「イーグルス」がメキシコのホテルグループに対し、商標権を侵害しているとして米カリフォルニア州連邦地裁に提訴していたことがわかりました。ホテル名が同グループのヒット曲と同一であるとのことです。今回は日本のものとは異なる米国の商標権について見ていきます。
事件の概要
訴状等によりますと、メキシコ西部バハカリフォルニアスル州にあるホテルは1950年台に「ホテル・カリフォルニア」の名前で営業を開始しました。その後一旦は名前を変更していましたが、2001年に経営者が変わり再び元の名前で営業を再開しておりました。米国人気ロックグループ「イーグルス」は同ホテルが70年台にヒットした曲「ホテル・カリフォルニア」のモデルであるかのように営業しているとして商標権の侵害を理由に損害賠償を求め米カリフォルニア州連邦地裁に提訴しました。原告側によりますと同ホテルは館内で同グループの曲を流し、関連グッズ等の販売も行っているとのことです。ホテル側はHP上でイーグルスとは無関係である旨表示しております。
米国の商標権
商標とは自己の商品や役務を他人のものと識別するための名称やシンボル、図形といったものを言います。これは日本における商標と同様と言えますが、米国で認められる商標は日本のものよりも範囲が広く、商品のパッケージや店舗のデザイン、色彩、スローガンや匂い、ロゴマークの動きやホログラムといったものにまで及びます。また日本では商標権は特許庁に登録申請をして登録がなされてはじめて発生しますが(商標法18条1項)、米国では使用しているだけでも生じます。つまり日本では先願主義が採用されており、使用していなくても先に登録すれば商標権を取得することになりますが、米国では実際に使用していることが重視されます。このように使用によって発生する商標権は米国コモンローを根拠としています。その他にも州商標法および連邦商標法に基づき出願し登録することもできます。使用による商標権は登録しなくても発生しますが、その使用している地域でのみ効力を有します。それ以外の地域では登録を要するということです。
商標登録手続
商標登録をするにはまず商標と対象となる指定商品・サービスを決定することになります。どの商品に関して使用するものかということです。この指定の対象は日本よりも具体的なものが要求されます。たとえば日本では「アルコールを含有しない飲料」(国際商品分類32類)といった包括的な指定ができますが、米国では実際に使用している、たとえば「コーヒー」といった指定が必要です。次に同一または類似の商標が既に登録、使用されていないかを調査します。そして特許商標庁に出願することになります。出願をしますと審査が開始され、補正・反論の機会が与えられた後、問題が無ければ公告がなされ30日間の異議申立期間となります。その後異議がなければ登録完了となります。
更新手続き
日本では商標権は登録がなされた日から10年間存続します(19条)。存続期間の満了の6ヶ月前から満了日までに更新登録をすることになります(20条)。米国では登録して5年後から6年目までに現在も使用している証拠とこれからも使用する旨の宣誓書を提出することになります。ここで継続使用が認められなければ登録が抹消されることになります。この使用している事実は、単に形だけの使用では足りず真正な使用を実際に行っていなければなりません。この点が日本での商標権に比べて厳しいものとなっております。
コメント
本件でイーグルスはメキシコ国内で営業を行っているホテルに対して商標権侵害を主張しています。米国では上記のとおり登録を行わなくても使用しているだけで商標権は生じますが、それは当該地域のみとなります。その地域を超えて州内で保護を要する場合は州商標法に基づき、またさらにそれを超えて全米で保護が必要な場合は連邦商標法に基づいて登録を要します。連邦商標法による登録がなされた場合は国際取引でも商標権が保護されることになります。メキシコ国内での使用に対して商標権侵害を主張するためにはこの連邦商標法による登録が必要であることからイーグルスもそれによる登録をしているものと思われます。このように米国で企業活動を展開するには商標権等の知財管理は避けては通れないものと言えます。どのような権利がどういった要件で発生するのか、またどの範囲で発生するのかを正確に把握し適切に対応することが重要と言えるでしょう。
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