野村證券に賠償命令、金融商品の説明義務について
2017/05/31 金融法務, 金融商品取引法, 金融・証券・保険
事件の概要
判決文等によりますと、新潟県在住の男性(75)とその長女(46)、そして東京在住の次女(42)は2008年10月に野村證券の担当者から金融商品の勧誘を受けた際、「資産の多い人にしかできない技がある」などと提案され、複雑でリスクの高いオプション取引をしていました。3人は同年に発生したリーマンショックにより多額の損失を出し、野村證券に対し総額約7億8千万円の賠償を求めて東京地裁に提訴しました。野村證券の担当者はリスクの具体的な説明をせず、安心のみを強調していたとのことです。
金融商品販売法による規制
近年、外貨預金や投資信託、各種デリバティブ商品等の多種多様な金融商品が販売されるようになり、それに伴って勧誘・販売をめぐるトラブルも多発しております。特に販売の際にリスク説明が不十分等により多額の損失を被る例が目立っております。こういった場合に顧客側は損害賠償請求を行いますが、業者側の説明義務違反や損失との因果関係等を立証する負担など重い負担を負います。そこで金融商品販売法により説明義務の明確化、推定規定による立証負担の軽減、罰則など顧客側を保護する規定が設けられました。以下具体的に見ていきます。
規制内容について
(1)説明義務
3条各項によりますと、金融商品販売業者は金融商品の販売を業として行おうとする場合に、顧客に対してその商品のリスクについて説明する義務を負います。具体的には金利、通貨の価格、市場における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として元本欠損、元本を上回る損失が生じる恐れ等がある場合はその旨や指標、損失発生の仕組みの重要な部分などについて説明することを要します。また金融商品の販売業者の業務、財産状況等を直接の原因として損失が生じるおそれがある場合はその旨および仕組みの重要部分について説明責任を負います。金融商品に権利行使期間や解約期間制限等がある場合にもその旨説明義務を負います。
(2)断定的判断の提供等の禁止
金融商品の販売に際しては顧客に対し「不確実な事項」について断定的な判断の提供をしたり確実であると誤認させるおそれのある事実を告げることが禁止されます(4条)。「確実に儲かる」「確実に値上がりします」「危険はありません」といった勧誘はできないということです。
(3)損害賠償責任
金融商品販売業者は上記義務等に違反し顧客に損害が発生した場合にはその賠償をする責任を負います(5条)。従来民法に基づく賠償責任ではこの義務違反と賠償責任の存在について原告側が立証しておりましたが、本法による明示によってその必要がなくなりました。また損害額についても元本欠損額が損害と推定されることになりました(6条1項)。元本欠損額とは商品の購入により顧客が支払った金銭の合計額から顧客が取得した金銭の合計額を差し引いたものを言います(同2項)。たとえば1千万円で購入し得られた額が600万円である場合は400万円が元本欠損額となります。
(4)勧誘方針の策定義務
金融商品の販売業者はあらかじめ商品販売の勧誘に関する方針を定める義務を負います(9条1項)。具体的には①顧客の知識、経験、財産状況、契約目的に照らし配慮すべき事項、②勧誘方法、時間帯等配慮すべき事項、③その他勧誘の適正の確保に関する事項が挙げられ、策定した際には公表しなければなりません(同2項、3項)。これを怠った場合には50万円以下の過料の罰則があります(10条)。
コメント
本件で原告の3名は野村證券の担当者の勧めでオプション取引を行っておりました。オプション取引とは将来の一定の期日に特定の商品をあらかじめ定めた価格で売買する権利の取引を言います。商品そのものを売買する取引ではなくその権利を売買する取引である点が先物取引等と異なります。株価が上昇すれば権利を行使して株を買い、下落すれば権利を放棄できる新株予約権と似ているところがあります。それ故に複雑な予測や判断を要します。東京地裁は「安心のみを強調し、リスクの具体的な説明をしていなかった」として説明義務違反を認めました。また長女と次女については投資講座を受けるなどある程度経験を積んでいたこと、また自信の判断で損失が増加した部分があること等を理由に賠償額は1億4千万円としました。損害額の推定はあくまで推定であり、被告側の立証によって減額することができます。複雑でリスクの高い商品の販売の際には、リスクの説明を十分に行い、損失が生じた場合には顧客側の責任事由によって責任が減少することについても十分に留意することが重要と言えるでしょう。
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