東京地裁がNHKへの提訴を「業務妨害」と認定、弁護士費用の負担について
2017/07/25 訴訟対応, 民事訴訟法, その他
はじめに
NHKの受信料徴収を巡りNHKを提訴したことが業務妨害にあたるとして、NHKが政治団体に弁護士費用相当分の損害賠償を求めていた訴訟で19日、東京地裁は54万円の支払を命じていました。訴訟費用とは別扱いとなる弁護士費用。今回は弁護士費用の負担について見ていきます。
事案の概要
日経新聞によりますと、2015年8月にNHKに受信料徴収の業務委託を請け負った業者の従業員が千葉県内の女性宅を訪問しました。女性は「NHKから国民を守る党」の代表である立花孝志氏に相談、その後NHKに対し慰謝料10万円の支払を求めて松戸簡易裁判所に提訴しました。女性は敗訴しましたが、NHKは勝てる見込みのない訴訟を起こさせたこと自体が「業務妨害」当たるとして立花氏を相手取り、女性との訴訟における弁護士費用相当分である54万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴していました。立花氏側は10万円の訴訟に54万円の弁護士費用の妥当性に疑問があるなどとしているとのことです。
訴訟費用と弁護士費用
民事訴訟法61条によりますと、訴訟費用は敗訴当事者が負担するとしています。そして民事訴訟費用等に関する法律では民事訴訟における訴訟費用が細かく規定されております。具体例を挙げますと、①訴え提起の手数料(3条1項)、②弁護士の裁判所出頭費用(規則2条2項)、③証人、鑑定人等の旅費や日当(18条1項)、④調査嘱託をしたときの費用(19条)、⑤訴状、副本の作成費用(規則2条の2第2項1号)、⑥判決正本送達費用などがあります。それでは弁護士費用はどうなるのでしょうか。訴訟を弁護士に依頼した場合、着手金と報酬を支払うことになります。訴訟における費用で大部分を占めるこの弁護士費用は原則として訴訟費用に含まれません。それゆえに訴訟で勝訴したとしても、相手方に負担させることはできないのが原則です。しかし判例により一定の場合には例外的に相手負担となることがあります。
判例上の例外
(1)不法行為による損害賠償請求
不法行為による損害を被った場合、判例は一定の範囲で弁護士費用を相手方負担にすることを認めています(最判昭和44年2月27日)。それによりますと、訴訟は高度に専門化されており一般人にとっては弁護士を使わずに訴訟を行うことはほぼ不可能であること、相手方の不法行為によって損害を受け、相手方から容易に賠償を受けられない場合には訴訟を起こさざるをえないことなどから、「事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り」弁護士費用も「不法行為と相当因果関係に立つ損害」に該当するとしました。
(2)安全配慮義務違反による労働災害
もう一つが労働災害の事例です。使用者の安全配慮義務違反により労働災害を受けた場合、一種の債務不履行責任として賠償請求することができます。不法行為責任ではありませんが、一定の場合には弁護士費用の相手方負担を判例が認めています(最判平成24年2月24日)。このような訴訟においても、使用者の安全配慮義務の内容や、損害の発生とその額などを被用者側が立証しなくてはならず、その負担は不法行為の場合と変わらないことから上の判例と同様の考え方で、「安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害」に弁護士費用も含まれるとしました。
コメント
本件で東京地裁は、「NHKの業務を妨害するため訴訟に関与しており、裁判制度を不当に利用する目的があった」と指摘したとされております。つまり訴訟行為自体を一種の不法行為とし、それに費やした弁護士費用自体が損害であると認めたものと思われます。これまでの判例では別途不法行為が存在し、それに関する弁護士費用も一定の要件のもとで損害に含まれるとしていましたが、今回は弁護士費用自体が損害と認めた点に特徴があると言えます。以上のように不法行為などの場合には弁護士費用も相手方負担とすることができる場合があります。しかしここで注意が必要なのは、判例が弁護士費用の相手方負担を認めた主な理由が、弁護士を使うことを余儀なくされたという点にあるということです。つまり相手方に請求したのに任意に応じず、しかたなく訴訟に踏み切ったという事情が必要であるということです。最初から弁護士を使っていきなり訴訟を提起した場合には認められない可能性があると言えます。一旦は任意に支払うように相手方に請求するなど、段階を経ることが重要と言えるでしょう。
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