シェアリングエコノミーの法的課題
2017/09/14 契約法務, 独占禁止法
はじめに
昨今、様々な形態によるシェアリングが行われており、政府による税制などをはじめとして法整備が間に合っていない現状にあります。今回は、「民泊」や「メルカリ」などのシェアについて、政府が税制整備に動き出したことを例に、他のシェアリングエコノミー事業を含めた法的課題点を検討します。本記事をご覧の法務担当者様および関係する事業展開を検討されている事業者様には、今後のシェアリング事業における契約上の注意点を意識していただければと思います。
「民泊」および「メルカリ」にみる税法上の問題点
1.民泊について
民泊サービスとは、自宅の一部や空き別荘、マンションの空室などを利用して宿泊サービスを提供するものをいいます。つまり、無償または有償でのサービス提供であり、有償での事業である「民宿」とは異なります。当該民泊形態のシェアリングを行う事業者の代表例として、「Airbnb(エアビーアンドビー)」が挙げられます。
2.メルカリについて
メルカリとは、フリマアプリであり、個人のモノを個人が購入することで販売手数料10パーセントを得て仲介を行うサービスです。メルカリは、「モノのシェアリング」の代表格です。アプリ利用者は国内外で9000万人を超えるとされており、アプリでのサービス提供業者としては業界1位となっています。
3.税法上の問題点
民泊の場合、仲介業者は、貸し手側からの宿泊先情報の提供を受け、借り手に情報閲覧が可能なようにサイト等を運営します。そこで、借り手が貸し手へ宿泊料を支払うこととなりますが、問題となるのは、貸し手の所得を把握することが困難であり課税漏れが発生することです。他方で、借り手については消費税を支払うべきかが問題となります。この問題はシェアリング事業全体にみられます。すなわち、仲介する事業者には個人間の金銭的な授受について、正確に把握することが難しいことに起因しています。ただし、事業者については新たな課税制度が設置されない限りは、課税負担はないのが現状です。
しかしながら、フランスでは2020年から仲介業者に対し税務当局への取引情報などの提出を義務化する制度を設ける方針が定められており、日本もこの制度に倣うことは大いにあり得ます。すると、かかる取引情報の義務を担保するために、情報不提出の事業には営業停止などの措置が定められることも考えられるのであって、事業者に全くもって無関係であるということはできません。
一方で、事業者はユーザーからの登録による事業展開に依存する形態であるため、ユーザー登録規約等にわかりやすく明記することで、税制負担における問題を登録者と生じないように事前に回避する必要性もあると思います。ただでさえ、民泊における問題点を例に挙げると、マンションの一室を民泊対象物件としたことで、下層階の住民から騒音の苦情が届いたり、共有物を破壊してしまったりなど、その責任の所在について、ユーザーと紛争が生じえます。このように、事前に潜在するユーザー同士の問題を回避するような規約を作成することで利用者満足度を向上させ、より多くの利用者獲得を図ることができるのではないでしょうか。
シェアリング事業の具体例
改めて、ここでシェアリングエコノミーとは、典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービスであり、貸主は遊休資産の活用による収入、借主は所有することなく利用ができるというメリットが存在するものです。動産・不動産に限られず、ノウハウや技術などもシェアリングの対象となります。以下では、その事業化された具体例を確認し、その法的課題をみていきたいと思います。
(1)モノのシェア
こちらは、衣服などのファッションに関して、各種フリーマーケットとして、売り手と買い手を繋げる事業となっています。
ここでの法的課題としては、前述したように、事業者としては個人間の金銭の移動を正確に把握することが困難であることを代表に、詐欺的被害による利用者フォローが必要になることです。「メルカリ」では事前に売却目的物の定価以上での販売を禁止するなどの利用条項が設けられていますが、新規展開を考える事業者としては、利用者数の獲得が難しく「メルカリ」一強状態となっていることが問題かもしれません。「メルカリ」側による顧客流出への積極的参入者への加害などが認められない限り、独占禁止法上の違法行為である「私的独占」・「不当な取引制限」および「不公正な取引方法」になることも考えられないため、新規参入に対するインセンティブが認められないと考えられます。
(2)場所のシェア
この事業形態にあっては、駐車場や会議室、民泊やルームシェアなどのシェアリングとなっています。この事業形態の法的課題としては、借り手による貸し手物件への棄損などが具体的に考えられます。その場合の責任の所在は大いに紛争対象となるので、利用者規約で明記することが重要となってきます。
特に、民泊の態様によっては旅館業法と抵触するおそれが存在します。たとえば、旅館業法上の「営業」に該当してしまう場合は、旅館業法上の営業許可を得る必要が生じます(同法3条1項)。上述したAirbnb社のマッチングする宿泊サービスを提供する側は、旅館業法上の許可を要することとなります。こうした事情が認められるため、日本での民泊事業が大々的に展開されていないのだと考えられます。
そして、旅館業法上のシェアリング事業者に対する制裁等についてですが、事業者が、民泊物件の提供者と利用者とのマッチングを行ううえで、貸し手の物件は旅館業法上の営業許可を要する形態での宿泊サービスの提供をしていると知っていながら、同許可を得ていないままマッチングさせたという場合であっても旅館業法上の違反は問われません。あくまで旅館業法上の違反主体は、宿泊サービスを提供する者だからです。
もっとも、2020年の東京オリンピック招致が決まった際にニュースでも取り上げられたように、政府は民泊での宿泊サービス提供主体を増加させることで、不足しているとされる都内の宿泊施設の代替を検討しています(詳細は、http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000171350.pdfのガイドラインを参照してください)。こうした「イベント民泊」に該当する場合には、例外的に民泊規制が緩和されるものの、場当たり的解決となっているため、法整備への意識を忘れないようにしていただきたいと思います。
(3)移動のシェア
こちらは、カーシェアリングやライドシェアリングを指します。代表格としては、「Uber」によるライドシェアリングが挙げられます。この事業も日本ではいわゆる「白タク」として規制対象になってしまいます。既存のタクシー事業者からの猛反発があり、日本ではこの手のシェアリングが認められるのは難しいかもしれません。
まとめ
以上のとおり、シェアリング事業においては様々な法的問題が発生しえますが、大別すると、①サービス提供者と利用者,第三者との間に生じたトラブルの責任を仲介業者も負うか、という問題、②サービス提供者の所得の把握が困難であることから生じる課税漏れ、の2点となります。
前者については、サービス提供者の登録に先立って、公的な身分証明書を使った本人確認等によりそのバックグラウンドをチェックし、未然にトラブルの発生を防止するなどの方法が考えられます。また、後者についても、Airbnbが部屋を貸し出すホストに確定申告のためのデータを抽出するシステムを提供していることからみられるように、仲介業者がサービス提供者の納税意識を喚起するような啓発活動が必要といえるでしょう。
政府はシェアリングエコノミーを推進する立場をとっており、今後も法整備がなされていくと思われますが、仲介業者の法務担当者様におかれましては上記のようにトラブルを未然に防ぐ環境づくりが当面の課題といえそうです。
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