最高裁が初判断、タックスヘイブン対策税制について
2017/10/25 税務法務, 租税法
はじめに
海外子会社の所得にタックスヘイブン税制を適用したのは違法であるとしてデンソーが課税処分取消しを求めていた訴訟の上告審で最高裁は24日、二審判決を破棄しデンソー側が逆転勝訴しました。今回は租税回避地の子会社等に課税するタックスヘイブン税制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、株式会社デンソー(愛知県)は2010年6月28日、名古屋国税局からシンガポール子会社がタックスヘイブン対策税制の適用除外要件を満たしていないとして2008年3月期から2009年3月期までの2年間について約114億円の所得に対し追徴課税約12億円の更正処分を受けていたとのことです。シンガポール子会社には現地事務所が存在し、20人以上の従業員が地域統括業務を担当し、税引き前利益の8割~9割が株の配当で占められていましたが、収入の85%は地域の物流改善業務の売上によるものだったとされております。デンソーは名古屋国税局の更正処分を不服として名古屋地裁に処分取消訴訟を提起しておりました。一審はデンソー側の主張を認め処分を取消しましたが、二審名古屋高裁は棄却としていました。
タックスヘイブン対策税制とは
法人税率の低い国にペーパーカンパニーを設立し、これを通じて事業を行なったり、各種権利や財産等を移転することによって親会社所在国での課税所得を圧縮するといったことが行われてきました。このような租税回避行為を規制する制度がタックスヘイブン対策税制です。日本では1978年度税制改正により導入された制度で米国等と比較すると適用例はまだ多くはありません。タックスヘイブン対策税制の適用要件について以下見ていきます。
適用要件
(1)特定外国子会社
まず日本国外に子会社(株式または議決権の50%超を親会社が保有)を有している場合、その子会社の存在する国または地域に法人税が存在しないか税率が20%以下の場合に税制の対象となってきます(租税特別措置法66条の6第2項1号、施行令39条の14第1項)。この特定外国子会社に該当する場合、一定の方法で計算された額が内国法人の所得に加算され課税されることになります(法66条の4第4項)。
(2)適用除外要件
しかし特定外国子会社が次の基準を満たす場合には適用除外となります(同3項)。
①事業基準
主たる事業が株式、債権などの保有や船舶航空機などの貸し付け等でないこと。
②実体基準
その本店所在地国に主たる事業に必要な事務所、店舗、工場などの必要な実体を備えていること。
③管理支配基準
本店所在地国において事業の管理、支配、運営を自ら行っていること。
④所在地国基準
事業の実体を主として本店所在地で行っていること。
(3)資産性所得
上記適用除外要件を全て満たしていても、資産性所得がある場合には内国法人の所得に合算して課税されることになります。資産性所得とは①株式の配当、株式の譲渡による所得、②債権の利息、譲渡による所得、償還差益、③著作権、工業所有権等による所得、④船舶、航空機の貸し付けによる所得などです。しかしこれらが1000万円以下である場合や特定外国子会社の税引前所得の5%以下の場合は適用除外となります。
コメント
本件でデンソーはシンガポールに子会社を有していました。日本の基準から見たタックスヘイブン国は香港、マカオ、パナマ、バミューダ、バハマ、サモア、リヒテンシュタイン等が挙げられますがシンガポールもそこに入っております。今回の主な争点は適用除外要件を満たすかどうかです。そしてその判断にあたっての「主たる事業」に関して最高裁は「事業活動の収入や所得、人数、店舗、工場などの状況を総合的に考慮するのが相当」としました。その上で、デンソーのシンガポール子会社の「主たる事業」は株式の保有などではなく、地域の物流改善などの業務などであると判断しました。デンソー子会社は適用除外要件を満たしたことになります。このようにタックスヘイブン税制の適否については適用除外要件の判断が一般的に主な争点となります。法人税率が低い国に子会社を有する場合は、株式保有などのペーパーカンパニーではなく事業の実体を有していることを上記の要件と今回の最高裁基準から見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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