アルプス電気の株式交換に投資家が反発、割当比率について
2017/11/15 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
株式交換により車載機器大手アルパインの完全子会社化を計画しているアルプス電気に対し、株式交換比率が適切でないとして同社株主であるオアシス・マネジメント・カンパニーが反発していることがわかりました。株式交換手続の中でも重要で部分である割当比率の決定。今回は株式交換比率について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、アルプス電気は平成31年1月1日を効力発生日として株式交換によりアルパインを完全子会社とする方針を固めております。それに先立ち完全子会社となるアルパインは平成30年12月26日をもって東証一部で上場廃止となる予定とのことです。アルプス電気側は会社法上の簡易株式交換の手続を利用することにより承認決議を省略し、アルパイン側は平成30年12月中旬に臨時株主総会を開催し承認を受けるとしております。予定されている株式交換割当比率はアルパイン普通株式1株に対し、アルプス電気普通株式を0.68株が割り当てられることとなっており、これにより交付されるアルプス電気株は約2769万株とされております。
株式交換とは
株式交換とは株式会社がその発行する全ての株式を他の会社に取得させ、その対価として株主には株式を取得し完全親会社となる会社の株式その他の財産を交付する行為を言います(会社法2条31号)。他の会社を完全子会社化する場合に多く用いられている組織再編行為の一種です。M&Aの方法としては、多額の資金を要することもなく比較的使いやすい制度と言えます。株式交換は文字通り株式を親会社に取得させる制度であることから、子会社となれるのは株式会社に限られます。一方完全親会社となる側は株式会社に限られず合同会社も可能となります(767条)。しかしそれ以外の持分会社や特例有限会社は親会社側になることはできません。
株式交換の手続
株式交換を行うには、まず会社同士で株式交換契約の締結を行ないます(767条)。そして株式交換契約書などの書類を一定期間本店に備え置き、開示することになります(782条、794条)。その後株主総会の特別決議による承認(783条、795条)、反対株主の株式買取(785条、787条)、債権者異議手続(789条、799条)を経て、所定の効力発生日に完全子会社化が成立します。その後も一定期間、書類の開示を本店で行ないます(791条、801条)。なお相手会社が自社の議決権の90%以上を保有している場合は承認決議を省略することができます(略式組織再編、784条1項但書)。これは改めて株主総会を開催しなくても可決されることが明らかであるためです。そして完全親会社が交付する対価が純資産の20%以下である場合も省略することができます(簡易組織再編、796条2項)。この場合は会社への影響が大きくないためです。
割当比率と公正な価格
株式交換等の組織再編に反対する株主は、自己の保有する株式を会社に「公正な価格」で買い取るよう請求することができます(785条1項)。価格について、効力発生日から30日以内に協議が整わない場合は裁判所に価格決定の申立を行うことができます(786条2項)。ここにいう「公正な価格」とは争いがありますが、判例では、組織再編行為によりシナジーが生じず、企業価値が増加しない場合には、組織再編行為の「承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格(いわゆるナカリセバ価格)、シナジーが生じる場合は、株式交換比率が公正なものであることを前提に、買取請求日にその株式が有する価格をを言うとしています(最決平成23年4月19日、最決平成24年2月29日)。つまり公正な価格は適切な割当比率を前提としています。これについては条文も判例においても明確な基準はありませんが市場価格を基準とする方法、類似企業の株価を基準とする方法、将来期待される利益やキャッシュフロー予測を基準とする方法、貸借対照表上の時価純資産等を基準とする方法などがあります。
コメント
本件でアルプス電気の株主である、オアシス・マネジメント・カンパニーは1対0.68の割当比率がアルパインの事業価値を十分に反映していないと主張しており、一旦TOBを行って株価の引き上げを行うべきであると主張しております。株式交換における対価の割当比率は、会社の企業価値を適切に反映した公正なものでなくてはなりません。これが現実の企業価値を反映せず、明らかに不公正な割合である場合には、組織再編行為の無効原因に当たると言われております。しかし上記の通りその算定や決定は容易なものではなく、実務上も重要な問題点となります。そこで公正・中立な第三者機関に企業価値や株式価値の算定をさせ、それを参考に決定する場合も多いと言われております。割当比率は反対株主の買取請求での買取価格の前提にもなるものであることから、消滅会社の株主の利益も考慮し、いずれの算定方法を採用するにせよ、合理的に説明できる割合にすることが重要と言えるでしょう。
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