「保守速報」に賠償命令、まとめサイトと名誉毀損について
2017/11/24 コンプライアンス
はじめに
インターネット上のまとめサイトで差別的な記事を掲載されたとして、在日朝鮮人の女性が2200万円の支払いを求めていた訴訟で大阪地裁は16日、運営側に名誉毀損があったとして200万円の支払いを命じていました。他人の記事をまとめただけで直接書いていない場合での認容判決となります。今回は名誉毀損表現について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、まとめサイト「保守速報」の運営者の男性は2013年7月から約1年間、匿名掲示板「2ちゃんねる」の「東アジアニュースプラス+@ニュースプラス」というスレッドなどに投稿されていた在日朝鮮人の李信恵さん(46)に関する記事などを編集しまとめて掲載しておりました。そこには李さんに対する「朝鮮の工作員」「頭おかしい」などといった差別的表現が多数含まれており、名誉毀損を理由として運営者の男性を相手取り2200万円の損害賠償を求め提訴していたとのことです。運営者側は「情報の集約にすぎず違法性はない」などと反論しておりました。
名誉毀損とは
人の社会的評価を害する表現行為等を行うことを名誉毀損と言います。この名誉毀損には刑事上のものと民事上のものがあり、刑法では「公然と事実を適時し、人の名誉を既存した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」(230条1項)としています。民事では名誉毀損は不法行為の一種とされ(民法709条)、「財産以外の損害」として賠償の責任を規定しております(710条)。そして名誉毀損の場合に裁判所は被害者の請求により、賠償に代えてまたは賠償とともに名誉回復措置を命ずることができます(723条)。
名誉毀損の要件
民事上の名誉毀損が成立するための要件は、①故意または過失により、②他人の社会的評価を低下させる事実を流布し、③他人の社会的評価が低下し、④それにより損害が発生したことと言われております。ここで刑法上の名誉毀損と同様に「公然性」を要件として求めるかについては争いがあります。この点について、古い大審院の判例では特定の者に書面を提出した場合や通信した場合などの公然性が無い場合でも名誉毀損を認めております(大判大正5年10月12日、大判昭和2年12月17日等)。しかしその後の裁判例では非公開の調停中の発言や警察署の室内での発言では公然性が無いとして名誉毀損を否定しており(長野地判昭和31年4月9日、東京高判昭和35年9月12日等)、取引先18名にメールを送信した事例では伝播可能性を肯定して認めたものがあります(東京高判平成26年7月17日)。また「事実の適時」でなく単なる意見の表明であっても成立し得るとしています(最判平成9年9月9日)。
記事転載の場合の問題点
名誉毀損の成否について、まとめサイトなどには特有の問題点があります。このようなサイトの場合、他人が書いた記事や投稿をただ単に集め、まとめて掲載しただけであり、自己が書いたものではないことから名誉毀損行為に当たらないのではないかということです。この点について裁判例では、既に公開されたものを転載したに過ぎず、元の掲載以上に原告の社会的評価の低下を招くものではないとして成立を否定したものがあります(東京地裁平成25年4月22日)。あくまで元の記事の掲載段階で名誉毀損は完結しているということです。
コメント
本件で大阪地裁は、元の記事や投稿について社会通念上許される限度を超えた侮辱や人種差別であるとし、まとめサイトによる転載については、表題の作成や情報量の圧縮で内容を効果的に把握できるようになったとし、2ちゃんえるとは異なる新たな意味合いを有するに至ったとして、元の記事とは別に独立して人格権の侵害があるとしました。既に行われた名誉毀損表現を転載しただけという評価ではなく、そこに新たな名誉毀損を認めたということができます。これまでは上記裁判例の判断から、まとめサイト等の転載行為では基本的に名誉毀損には当たらないと考えられている傾向がありました。今後の控訴審や上告審で覆る可能性はあるものの、他人の記事の転載でも名誉毀損が成立する可能性は高くなったと言えます。以上を踏まえて自社が運営するHPやポータルサイトにまとめ記事を掲載している場合は、差別的表現やヘイト表現が含まれていないかを慎重に見直すことが重要と言えるでしょう。
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