コインチェックに行政処分、仮想通貨事業に対する規制について
2018/01/30 金融法務, 資金決済法
はじめに
第三者からの不正アクセスにより大量の仮想通貨が流出した問題で金融庁は29日、仮想通貨取扱業者「コインチェック株式会社」に対し業務改善命令を出した旨発表しました。流出額は約580億円相当に上るとのことです。今回は仮想通貨取引に関する資金決済法上の規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、26日、仮想通貨取引大手コインチェックが運営する仮想通貨取引所「coincheck」のシステムに第三者が不正アクセスを行ない、約580億円相当の仮想通貨「NEM」が流出したとのことです。流出は26日の午前0時すぎに始まり、20分程度で被害額のほぼ全額が流出したとされます。コインチェック側のシステムが異常を検知したのは同日午前11時とされ、約半日近くもの間被害に気づかなかったことになります。金融庁関東財務局は同日この事態を受けて同社に対し報告を求め、原因究明や顧客への対応、再発防止策に関して不十分であるとし、29日に業務改善命令を出しました。同社は被害を受けた約26万人の顧客に対し日本円で補償する方針を明らかにしております。
仮想通貨とは
仮想通貨とは法定通貨のように国家による価値の保証を受けない通貨で、一般に電子的な暗号を用いて発行されるため暗号通貨とも呼ばれます。現在仮想通貨はビットコインを始め、約600種類以上が存在していると言われております。仮想通貨は国家による価値の保証が無いだけでなく、その存在も電子システム上のセキュリティに依存することからハッキングによる流出の危険も内包しております。また統一的な法規制や監視監督機関も存在しないため、マネーロンダリングや脱税、詐欺といった犯罪の温床になりうるとも言われております。これを受け日本では平成28年に資金決済法と犯罪による収益の移転の防止に関する法律が改正され仮装通貨の規制が始まりました。
資金決済法による規制
改正資金決済法では現在仮想通貨交換業を行う場合には内閣総理大臣の登録を受ける必要があります(63条の2)。無登録で行った場合には3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となります(107条2号、5号)。外国の法律によって登録を受けている国外企業であっても日本で登録を受けなければ仮想通貨交換業を行うことはできません(63条の22)。
各種規制内容
(1)財源規制
仮想通貨交換業を行うためには一定の財産的基礎を保有する必要があります。まず資本金が1000万円以上であることと、純資産額がマイナスでないことが挙げられます(63条の5第1項3号、内閣府令9条)。さらに各事業年度ごとに内閣総理大臣に報告書を提出する義務を負い、また公認会計士による監査報告書を添付する必要があります(63条の14)。
(2)行為規制
仮想通貨交換業者には仮想通貨取引のリスクに鑑み、①名義貸し行為の禁止(63条の7)、②情報安全管理措置(同条の8)、③委託先への指導(同条の9)、④利用者保護措置(同条の10)、⑤利用者財産の管理義務(同条の11)、⑥紛争解決機関との契約義務(同条の12)などの行為規制が規定されております。ここで特に重要なのは利用者保護措置です。利用者への説明や情報提供が義務付けられます(内閣府令16条、17条)。
(3)監督官庁からの監督
内閣総理大臣の権限の委任を受けた金融庁(104条)により、業者に対して一定の監督がなされます。上でも挙げた報告書の提出の他に、①立入検査(同条の15)、②業務改善命令(同条の16)、③登録の取消(同条の17)、④処分の公告(同条の19)、が挙げられます。
コメント
本件でコインチェック側はNEMの保管を「ホットウォレット」で行っており、また「マルチシグ」も導入していなかったとしています。ホットウォレットとはオンライン上で管理を行うもので、またマルチシグは仮想通貨の秘密鍵を分散管理する方法を言います。コインチェックは仮想通貨NEMを扱う取引所としては日本最大規模で登録人数も取引額も膨大なものとなっております。それ故にハッカーからも狙われやすく、高いセキュリティ管理が求められておりました。しかし金融庁の調査では管理体制は杜撰であったとのことです。仮想通貨取引は現代のゴールドラッシュとも言われ、一攫千金を夢見て多くの人が参入しております。それに伴い規制の強化も進んできております。仮想通貨事業に参入を考えている場合は、これらの法規制を把握した上で、電子セキュリティ対策に特に重点を置くことが重要と言えるでしょう。
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