応用美術の著作物性
2018/09/18 知財・ライセンス, 著作権法
1.はじめに
ある製品が、実用的な側面のみならず、デザイン的要素や美的要素を備えている場合、それが応用美術にあたることがあります。
応用美術にあたる場合、その製品のデザインや絵図等が、著作物に当たるとして、著作権法の保護を受けることがあります。
以下では、応用美術にあたる場合における、著作物性の有無および、著作権侵害を未然に防ぐ対策について述べています。
(1)製品が応用美術にあたる場合、相手方企業から複製権侵害等を指摘され、場合によっては差止訴訟損害賠償請求訴訟に発展することがあります。
(2)応用美術とは
絵画、彫刻などの純粋美術もしくは自由美術に対して、実用性,有用性をふまえた美術のことを指します。
具体的には、工芸美術全般、装飾美術、現代のデザインなどをいいます。また実用性を目的とする点で、建築もこの分野に含まれます
2.訴訟となった事例
<TRIPP TRAPP事件>
この事件で問題となった製品は、幼児用椅子です。幼児用椅子自体は工業製品な のですが、事件になった椅子は、デザイン性の高いものであったために、著作権侵害が問題となりました。
この判決は、応用美術であっても、創作性(デザインを書いた人の、何らかの個性の表れ)が認められれば、著作物と認めない理由は無いとして、著作物性を認めています。
<エジソンのお箸事件>
この事件で問題となった製品は、幼児用のお箸です。
問題になったこの製品には、キャラクターが描かれていたため、著作権侵害が問題となりました。
この判決は、実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上,美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく,何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である、として、従来の厳格な規範(TRIPP TRAPP事件よりも厳しい規範)を用いていますが、結論としては原告製品の著作物性を認めました。
<携帯加湿器事件>
問題となったのは、試験管の形をした、携帯型加湿器です。
この判決では、TRIPP TRAPP事件と同様に、作成者の何らかの個性が現れていれば創作性が認められる、との規範を適用しています。
しかし、判決は、この製品には個性が認められないとして、著作権侵害を否定しています。
3.応用美術に著作物性が認められる場合の基準
美的鑑賞品である純粋美術に対して、実用性有用性をふまえた美術のことを指します。
広義の応用美術は、美術工芸品、建築等を含みますが、著作権侵害が問題となるのは、大量生産される工業製品についてです。
上記判決は、著作者の個性が認められればよいとする基準と、実用性を離れた独自の美的鑑賞性を備えなければならない、という二つの基準どちらかを採用しています。
4.侵害を未然に防ぐ対策
上記のように、TRIPP TRAPP事件や加湿器事件では、デザイン等の表現に何らかの個性が現れていれば、著作物性を認めるという、原告側に有利な規範を用いていますが、エジソンのお箸事件では、美的鑑賞対象性を要求し、原告側に不利な厳しい規範を用いています。
いずれの規範で判断されるにせよ、製品が応用美術である場合、具体的には美的要素やエンターテインメント性が少しでも備わっていると思われる場合には、著作権侵害が問題となる可能性は十分にありえます。
著作権侵害として訴えられないためにも、当該製品を生産・販売する場合には、類似品の有無を調査し、デザイン等の原作者が存在する場合には、使用許可を取ることが必要になってくると思われます。
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