日産がゴーン氏姉を提訴、時効中断について
2018/12/18 民法・商法
はじめに
日経新聞電子版は14日、日産自動車が元会長ゴーン氏の姉に対し不当利得返還を求め提訴した旨報じました。現時点では時効を防ぐことを主な目的としています。今回は時効とその中断について見ていきます。
事案の概要
日経新聞などによりますと、日産自動車は現在金商法違反等の容疑で逮捕・勾留されている元会長カルロス・ゴーン氏の姉に対しアドバイザー料として毎年約10万ドル(約1100万円)を支払っていたとされます。日産の社内調査の結果、姉の業務には実態が無く、毎年支払っていた10万ドルは不正な経費支出であると判断したとのことです。姉は現在ブラジルのリオに在住しており、日産は11日にリオの裁判所の提訴しました。現在のところ時効中断が提訴の主な目的であるとしています。
時効とは
時効とは、ある事実状態が一定期間継続している場合は、その事実状態を尊重し、それに即した権利関係を認めようとする法制度を言います。他人の土地などを一定期間占有することにより所有権等を取得する取得時効、権利を一定期間行使しないことによって権利が消滅する消滅時効があります。一般的にこの時効制度の趣旨は①永続した事実状態の尊重、②証明困難の救済、③権利の上に眠る者を保護しない、といった3つの意味があるとされております。以下消滅時効を具体的に見ていきます。
現行法と改正法の消滅時効
現行民法では債権の消滅時効は10年、それ以外の財産権は20年となっております(167条1項2項)。そしてそれ以外にも特殊な短期消滅時効として、医師の診療債権は3年(170条1号)、小売代金債権は2年(173条1号)、飲食店等の代金債権は1年(174条4号)などがあります。時効の起算点は権利を行使することができるようになった時点からです(166条)。また商行為によって生じた債権は5年で消滅するとなっております(商法522条)。平成32年(2020年)4月1日から施行される改正民法ではこれら全てが統一され、権利を行使することができるときから10年、行使できると知ったときから5年のいずれか早いほうの到来で消滅することになります。また時効の「中断」と「停止」も改められ、「更新」と「完成猶予」にかわります。
時効の中断
時効には中断というものがあります。権利者から提訴されたりすると時効はその時点で中断します。中断とは時効のカウントがそこで止まるのではなく、リセットされてしまうという意味です。それとは違い停止はその名のごとく時効のカウントがストップします。一般にこれらの言葉の意味がわかりにくいとされ、改正法では上記のように改まることとなりました。中断事由は①請求、②差し押さえ、仮差押、仮処分、③承認の3つがあり(147条)、請求とは原則的に裁判所に訴えることです。支払督促や調停申立、破産手続き参加も含まれますが、裁判外の催告は6ヶ月以内に訴えを提起しないと中断しません(153条)。承認は債務者が債務の存在を認める言動をいいます。改正法では裁判上の手続き中は「完成猶予」され、確定すると「更新」となります。また当事者の協議で「完成猶予」できりことになります。
コメント
本件で日産はゴーン氏の姉に対し、毎年10万ドルを支払ってきたとされます。これが日本であった場合、不当利得返還請求債権は10年で時効消滅することになります。中断させるためには、とりあえず裁判所が関与する手続きを取る必要があります。その猶予も無い場合はとりあえず催告をしておくことも考えられます。このように時効制度は債権者にとっても債務者にとっても重要な制度ですが、中断事由は一般的にはわかりにくく、間違った手続きをしてしまうと時効が完成してしまうということも有りえます。また2020年4月からは短期消滅時効が廃止されるなど時効期間も大きく変更することになります。現行法と改正法の時効制度を把握した上で、迅速に中断(完成猶予)手続きを取れるよう準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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