コクヨがぺんてる買収失敗、買収防衛策について
2019/12/20 商事法務, 戦略法務, 会社法
はじめに
文具大手「コクヨ」(大阪市)が「ぺんてる」(東京)の株式を公開買付していたことに関し、ぺんてるは13日、同社持株会と文具大手「プラス」(東京)で過半数を確保したと発表しました。コクヨのぺんてる買収が失敗したこととなります。今回は以前にも取り上げた買収防衛策について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、ぺんてるの筆頭株主で文具最大手のコクヨは11月15日、ぺんてるを連結子会社とするべく同社株の公開買付を行う旨発表しました。当時ぺんてる株式の37%を保有していたコクヨは1株あたり3500円で買い増す方針であったとされます。それに対抗し文具大手プラスがぺんてる株式を同額で買い付ける旨の発表を行い、コクヨ側も買付額を3750円、同月29日には4200円まで値上げすると発表していたとのことです。
敵対的買収とその防衛
対象の会社の同意を得ずに株式を買い集める行為を一般に敵対的買収と言います。3分の1以上取得することによって株主総会での特別決議を、半数以上取得することによって普通決議を阻止することができ、また役員の解任や選任も自由に行うことができるようになります。ライブドアによるフジテレビ買収の事例が広く知られております。このような敵対的買収を仕掛けられてから慌てて防衛策を講じる会社も少なくはないと言えます。それではどのようにして防衛すればよいのでしょうか。以下具体的に見ていきます。
敵対的買収防衛策
(1)ポイズンピル
敵対的買収防衛策として一般的に最も知られているのがポイズンピルです。毒薬条項とも呼ばれており、あらかじめ新株予約権を発行し、敵対的買収が行われることを条件として株式を増やし、買収者の保有比率を下げるという手法です。一般的にはまず一定の割合を超える買収を行おうとする株主に対して警告を行い、それに従わない場合に発動するとしている会社が多いと言えます。
(2)ホワイトナイト
敵対的買収が仕掛けられた場合に、自社にとって友好的な第三者に対抗して買取を仕掛けてもらうという手法をホワイトナイト(白馬の騎士)と言います。敵対的買収者よりも有利な価格で買収を実施してもらうことになります。
(3)ゴールデンパラシュート
買収される側の会社役員の退職金を高くしておくことによって、敵対的買収者の意欲を低下させようとする手法をゴールデンパラシュートと言います。通常敵対的買収が成功した場合、現経営陣は退陣させられることとなります。その際に支払われることとなる退職金を就業規則で高く設定しておくことによって会社の財務状況の悪化が予想され買収を諦める方向に誘導します。。欧米でよく利用されると言われております。
(4)クラウンジュエル
買収される側の会社があらかじめ会社の重要な事業や資産を第三者に譲渡して会社の価値を減少させ、買収の意欲を阻害しようとする手法をクラウンジュエル(王冠の宝石)と言います。焦土作戦とも呼ばれ、重要な事業または保有株式を友好的な会社に疎開させる場合が多いと言えます。ライブドアがニッポン放送に買収を仕掛けた際に検討されていたと言われております。
(5)パックマンディフェンス
敵対的買収を仕掛けられた会社が逆に買収をしかけることをパックマンディフェンスと言います。会社法では株式を保有していても、その会社に自社株を25%以上保有されている場合は議決権を行使することができなくなります(相互保有株式、308条1項かっこ書)。この制度を利用して逆に相手会社の株式を取得し議決権を奪うという考えです。
コメント
本件でぺんてるはコクヨによる敵対的買収に対し、友好的な企業であるプラスに対抗的に買収をしかけてもらう、いわゆるホワイトナイトを採用しました。これにより同社は従業員持株会とプラスをあわせて過半数の確保に成功しました。ぺんてるは非公開会社ですべての株式には譲渡制限がかかっております。コクヨは過半数を確保したら役員を解任してでも公開買付にかかる譲渡承認を行う予定だったと言われております。近年では敵対的買収防衛策をあらかじめ講じている会社は減少傾向にあると言われております。しかし以上のように敵対的買収は予期せず突然行われます。その時になって第三者割当増資や新株予約権を発行した場合、差し止めや決議取消の訴えなどが提起されることも予想されます。自社にとって対策が必要かを今一度検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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