みやま市が「みやまSE」を告発、会社法の特別背任について
2020/05/29 コンプライアンス, 会社法
はじめに
福岡県みやま市は18日、第三セクターの電力小売業「みやまスマートエネルギー」(みやまSE)が業務委託に不備があったとして同社の磯部社長を会社法の特別背任で告発していたことがわかりました。特定の業者に不当に高額な報酬を支払っていたとされます。今回は会社法の特別背任について見直します。
事件の概要
報道などによりますと、みやまSEは「おおすみ半島スマートエネルギー」(おおすみSE)と取扱店契約を締結し、使用電気量に応じた手数料を支払っていましたが、この手数料が他の取扱店の平均2.5%に比べ高率な約8%であったとされます。おおすみSEはみやまSEの磯部社長が昨年7月まで社長を務めていた会社で、他にも同氏が社長を務める「みやまパワーHD」(みやまPHD)などの複数の会社と契約を締結していたとのことです。みやま市議はこれらの会社への優遇を正当化する合理的理由は見いだせず、また会社法の利益相反にもあたりうると指摘しております。
会社法の特別背任とは
会社法960条1項によりますと、取締役や監査役等が自己または第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を加えたときは10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。刑法で規定されている背任罪は5年以下の懲役または50万円以下の罰金となっておりますが、会社役員など一定の地位にある者に特別に重い責任が科されております。なお代表社債権者にも5年以下の懲役または500万円以下の罰金が規定されております。
特別背任の具体的要件
(1)規制対象
会社法の特別背任が適用されるのは取締役、会計参与、監査役だけでなく、執行役や発起人、設立時取締役、設立時監査役、民事保全法上の職務執行者、一時取締役等、支配人、使用人、検査役となっております(960条1項1号~8号)。会社において一定の地位と権限が与えられている者に特に重い責任を課すというものです。精算中の会社の清算人等も同様となります(同2項)。
(2)図利加害目的
特別背任が成立するためには自己または第三者の利益を図る目的(図利目的)、または会社に損害を与える目的(加害目的)が必要です。たとえ役員としての任務に背く行為をしたとしても、会社のために行った場合にはこの図利加害目的が無いことから特別背任は成立しないということです。
(3)任務違背行為
任務に背く行為とは、会社との信任関係に反する行為です。役員等として当該事情のもとで信義則上期待されている範囲を逸脱する行為などとも言われます。判例ではその行為が行われた当時の様々な諸事情を総合的に考慮して、任務に背いていたかを判断していると言えます(最判平成16年9月10日)。
(4)財産上の損害
財産上の損害とは、既存財産(積極財産)の減少だけでなく将来取得しうる利益(消極財産)の喪失も含まれると言われております。つまり現時点で損害が発生していなくても、将来入るべき利益が減少した時点で損害と言えます。たとえば不良貸付の場合、その貸付け行為自体が損害となります。
コメント
本件でみやま市側の主張が事実であった場合、みやまSEの社長が自ら社長を務める他社に割高な手数料を支払っていた行為は自己または第三者の利益を図るものであり、それにより会社に財産上の損害が生じていると言え、特別背任の要件を満たす可能性があると考えられます。会社法の特別背任はほとんどの場合、回収の見込みの無い不正融資や自己が関与する他社の不良在庫を会社に購入させるといったものです。これらの場合特別背任とは別に利益相反行為にも該当する可能性があります。また銀行などの金融機関の役員等の不正融資に関与した場合、特別背任の共犯が成立するとも言われております。特別背任は自社内だけでなく、他社との関係でも注意しておくことが重要と言えるでしょう。
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