保育園騒音で請求棄却、騒音訴訟の判断基準について
2020/06/25 訴訟対応, 民事訴訟法, その他
はじめに
保育園の近隣住民が、園児の声がうるさいとして運営会社に騒音差し止めと損害賠償を求めていた訴訟で東京地裁は18日、住民側の請求を棄却していたことがわかりました。騒音は我慢の範囲内とのことです。今回は騒音訴訟の判断基準について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、問題となった東京都練馬区の保育園は平成18年に設立が計画されたとのことです。当時近隣住民から騒音のおそれがあるとして園庭の場所を変更するよう求められたが、園側は防音壁を設置するなどして園庭の場所は変更せずに翌年開園したとされます。開園後もやはり騒音は改善せず、東京都公害審査会での調停も不調に終わっていたとのことです。園側は園庭の使用を1日30分以下、月に15日以下に減らしていたとされます。
騒音訴訟とは
騒音に関する訴訟は、悪臭や振動などと同じく公害訴訟の一種です。問題となる騒音の種類は多種多様で、空港や高速道路、工事や工場、近隣住民のオーディオや楽器の演奏、冷暖房の室外機、掃除機や洗濯機、ペットや子供の鳴き声などあらゆる音源が騒音トラブルの原因となり得ます。一般に騒音訴訟では騒音の差し止めと損害賠償が求められることとなります。それ以外でも異常に大きな音を出して近隣の静穏を害した場合は軽犯罪法違反(1条14項)、また故意に大音量を出して住民に精神障害を生じさせた場合には刑法の傷害罪となる場合があります。賃貸物件の場合は管理人が適切に対応しない場合は債務不履行となる場合もあります。
騒音訴訟の判断基準
日常生活や商業活動において、ある程度の音の発生は避けることができません。それではどの程度の音であれば違法となり損害賠償等の対象となるのでしょうか。一般に裁判所では受忍限度を超えた場合に違法となるとされております。そしてその判断には侵害の態様、程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の公共性・公益性の程度、地域環境、侵害状況の経過、防止措置の有無など諸般の事情を総合的に考慮して判断されると言われております。
騒音に関する事例
騒音に関する事例として、保育園の近隣住民が損害賠償と防音設備の設置を求めた訴訟があります。この事例では裁判所は騒音レベルが全時間帯の等価騒音レベルに引き直すと環境基準を下回ること、原告の自宅との距離における減衰を考慮すべきであること、騒音の発生が1日3時間程度であること、当園が1年ほどかけて説明会を行い、防音壁や二重サッシを設置したことから受忍限度内としました(神戸地裁平成29年2月9日)。また一方で、マンションの上の階に居住する子供の走り回る騒音被害を主張し損害賠償と差し止めを求めた訴訟では、受忍限度の騒音は53dBまでとし、それを超える子供の騒音を防止する配慮をしないことは受忍限度を超えるとし差し止めと損害賠償を命じております(東京地裁平成24年3月15日)。
コメント
本件で東京地裁は、保育園側は建設工事の開始前日に説明会を開催するなど、当初の対応は問題があるとしながらも、近隣住民の苦情を踏まえて園庭の使用を控えるなどの試行錯誤を重ねて騒音レベルを抑制されるようになったとし、騒音は受忍限度内であるとしました。以上のように騒音訴訟では具体的な音量だけでなく、その状況や時間、音を出す側の騒音対策、住民との折衝などあらゆる要素で総合的に判断されることとなります。上記裁判例では具体的な音量が示されましたが、それも事例によって異なるものであり、数字自体にそれほどの意味はないものと考えられます。騒音による苦情が想定できる事業を予定している場合は、近隣住民との真摯なやり取りが重要と言えるでしょう。
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